釧路戦記 |
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第二十七章
城山地区にある本部に着いたのは十二時四十分であった。駐車場にバスを入れ、本部に出頭した。本部長は私を見るなり言った。「四十分遅刻だな」 「どうも遅れてすいません。敵と交戦したもんですから」 「名誉の遅刻か。まあいい、入れ」 五十人ばかり入れる会議室で私達は、本部長から指示を受けた。 「……であるから諸君には、釧路市街での警備に当たられたい。警備区域は、ここに描いた区域だ。ここが警備本部」 と言いながら本部長は、黒板に大きく市街図を描いた。この区域は、南と東を釧路川、北を国鉄線、北を仲浜町を通る道で限られた、結構広い区域である。 「何か随分広いですな。こんなに広い区域を三十人で警備するとしたら、二−三百メートル四方に一人くらいになりますな。そんな広い区画に一人ですか?」 私の問いに本部長は答えた。 「いや、我々だけではない。地元住民の自警団や、いろいろな団体の警備隊もある。それを率いるのが我々の任務だ」 「それと、その――この区域の中を、更に班毎に分かれて警備する訳ですね。この区域の中を、どう分けたら……」 「その事か。協議した結果、四班に分けるならこの線で(と黒板の図に線を補いながら)分けるのが良かろう、ということになった」 「わかりました」 「さあそれでは、昼飯は向うに用意してある。食べたら着任して貰おう」 「あ、待って下さい。……まだ冬服の支給を受けてません」 出て行こうとする本部長を私は呼び止めた。 「まだ支給を受けてない? わかった。今ここで申告しろ。特に申し出が無いなら寸法は今の服と同じになる」 私は本部長に、山岡の事を相談した。あの事以来、ひどい神経症に罹っているので、暫く前線から外したらどうか、と言ったのである。その結果山岡については、衛戍病院で診断待ちということになり、私達の隊から外された。 昼飯の後、私は部下達を前に言った。 「もう気がついてる筈だが、今日我が隊に補充兵が入った。補充兵八人、前へ」 冬服を着た八人が、前へ出てきた。補充兵達は、基地にいるうちに冬服の支給を受けていたのに違いない。 八人を並べて、端から順に、 「中山だな」「中山です」「谷口班だ。これが班長の谷口」 「次は……吉田」「吉田です」「谷口班」…… 補充兵八人の割り当ては、中山と吉田が谷口班、伊藤と森本が河村班、上野と久保田が酒井班、阿久津と加藤が古川班となった。 三十分後、私達は、冬服が支給されるまでの暫定処置として支給された古い外套を着て本部を出た。小銃は荷物の中に仕舞って、鉄兜以外は民間人になり済ましていた。 釧路川に架かる幣舞橋を渡り始めた時、突然左手から激しい銃声が響いてきた。 「伏せろ!」 橋の手摺に銃弾が当る。小銃を構えようとして重大な事に気付いた。 (銃は鞄の中だ!) 港の方を窺ってみると、数人の敵兵を乗せた小さな艇が近づいてくるのだった。敵兵は軽機で我々を狙っている。 敵の艇は次第に接近してくる。三十メートルまで接近してくれば手榴弾の射程だ。銃弾を浴びせながら接近してくる艇が、三十メートルに近づくまでの時間の何と長く感じられたことか。 いよいよ来た。私は伏せた姿勢で手榴弾を取り出し、ピンを抜いた。距離を見極めて一発投げる。…… 艇の舳で爆発が起こり、軽機を射っていた兵を水中に叩き落とした。もう一発、舮に爆発が起こり、エンジンを破壊した。燃料に引火し、木造の艇は見る間に炎に包まれた。敵兵は次々に川へ飛び込む。それを狙って拳銃が火を吹く。敵兵は全員屍となって、艇の残骸と共に港の方へ流れていった。 「走るぞ!」 私は叫んだ。号令一下三十六人は幣舞橋を疾駆し、護岸堤防と建物の間の狭い空地に駆け込んだ。 「相当敵は暴れてるぞ。急いで小銃を組み立てろ。外套の下に隠し持つのだ」 私は鞄を開け、数分前に分解した小銃を組み立てた。これを外套の下に隠し、私達は何気無く北大通を歩いて行った。 敵兵を見かけることもなく、警備本部があると本部長が言っていた場所に着いたが、それらしい建物は無い。ごく一般的な商店街である。 「さて一体どこにあるんだろう?」 辺りを見回していると、一人の小柄な老人が歩み寄ってきた。 「矢板小隊かね」 何故この部隊の名前を知っているのだ? 「そ、そうだ」 「待ってました。こっちへ」 私は警戒を緩めなかった。河村に耳打ちした。 「お前の班と古川の班はここに残れ」 「わかった」 私は本部班と谷口班、酒井班だけ連れて、その老人の後を尾いて行った。大通りよりもう一本東側の道に入ったところで老人は立ち止まった。 「この角から三軒目と四軒目の間に路地がある。そこが入り口じゃ。一人ずつ、全力で走って来なさい」 老人はこう言うと、老人と思えないほどの速さで通りを疾走し、身を飜して路地に消えた。 「行くか」 私は全力で通りを、足音を殆ど立てずに疾走し、身を飜して路地に飛び込んだ。野戦を経験すると市街戦ほどではないが身のこなしが培かわれる。私を見て老人は囁いた。 「半分だけ来させなさい」 私は頷いた。私に続いて屋代、浅野、谷口、西川、石田、岸本、中山、吉田と来たところで私は次に来ようとしていた中村に向かって、右手を真っすぐ前へ出し、手首を上へ曲げて掌を中村に向ける動作をした。これは制止の合図だ。 路地に集まった九人に向かって老人は言った。 「この奥の階段は、儂が踏む段だけを踏んで上って来なさい。急だから手摺があるが、踊り場までは右の手摺、踊り場からは左の手摺には絶対触れないように。電流が流してあるんでな」 一体どういう所なんだ? 私は言った。 「俺はここに残る。後から来るのに今の事を教えねばならん」 私を除く八人は、老人に続いて路地奥へ入って行った。私は、通りにいる十一人に、一人ずつ路地へ来させ、全員来たところで先刻老人の言ったことを十一人に教えた。十一人は路地奥へ入って行き、私は十一人に続いて奥へ入って行った。 鉄の階段を、注意しながら上り、扉を開けて中へ入ると、そこに先刻の老人がいた。 「あなたで全員かな」 答えに窮した。まだ外に十六人いるが、それをここへ来させると、もしもの場合に危険が大きい。 「先刻より少なくなってるが?」 衝かれた。こうなったら仕方無い。 「まだ外に十六人、仲間がいる」 「ならその仲間も来させなさい」 私は外へ出た。階段を降り、無線機で河村を呼んだ。 「TYK、こちらTYH、応答せよ」 〈こちらTYK。TYH、どうぞ〉 「部下をこっちへ来させろ。手順を説明する。今いる大通りより、もう一本東の道の交差点へ行け。そこから、駅の方へ向かって左側、三軒目と四軒目の間に路地がある。ここへ、一人ずつ走って来させろ。以上」 〈一本目の道の、駅へ向かって左側、三軒目と四軒目の間だな。了解〉 一分ばかり後、路地に、君塚が駆け込んで来た。私の方へ向かって来ようとする君塚を制止した。続いて宇田川、渡辺、古川、片山、小笠原、宮川、貝塚、荒木、阿久津、森本、大島、細谷、伊藤、加藤、そして最後に河村が来た。私は話した。 「この先に階段があるが、上る時に注意しろ。今から言う段は踏んではならない。下から数えて二段目、四段目、七段目。踊り場より上も同じ。それと、踊り場までは右の、踊り場からは左の手摺には触れぬこと」 私は階段を上り、扉を開けて中に入った。例の老人は、短い廊下の突き当たりにある押入の戸を開けた。上下に分かれている上の方に入ってゆくと、ふっと上へ飛び上がって姿を消した。私は目を疑った。とにかく押入の上の方に登ってみると、押入の天井張が無いのだった。 「三階建になっているのじゃよ」 老人が顔を出して笑った。三階を見ると、そこに私の部下達もいた。北日本大隊の友軍も、二人ばかりいる。ここは予想以上に広いが天井が低い。その天井には白熱電球が幾つか下がっている。 全員集まった。老人は話し始めた。 「この六月から、この町にも革命軍の者共が増え始めて、いつ儂等市民に危害が及ぶかと思っていたら、今朝から町中で、無差別に攻撃をかけてきた。そこであなた達に、出動を願ったという訳だ」 「自警団や警備隊が組織されていると聞きましたが……」 私は言った。三十六人で釧路市の中心街を警備するなんて土台無理な話だ。 「組織されてはいるが……自警団では革命軍に対抗するには弱体すぎて歯が立たん。警備隊も、要するに用心棒なんだが雇う金がない」 三沢小隊長が続けた。 「我々二個小隊も警備の一翼を成しているが何にしても人員不足でね」 「とにかくわかりました。我々がやらずして誰がやる。行くぞ」 誰からともなく声が上がった。私は部下達を制止した。机の上にあった地図を取り、 「ちょっと待て、警備の分担を決める。まず谷口の班はここの地区だ」 北を鉄道の線路、西を北大通、南と東を釧路川で限られた地域だ。 「河村班はここ」 東を谷口班に接し、南を市役所前の道、西を国鉄工場、北を駅で限られた地域。 「酒井班はここ」 東を河村班と接し、南は川まで、北を線路、西を国道三十八号で限られた三角形の地域。 「最後に古川班はここ」 東を酒井班に接し、北は仲浜町の、上村小隊との境まで、南は釧路川まで、西は海に面した地域。 「本部班は……浅野と早川は、谷口班に入れる。 では出動」 河村が老人に訊いた。 「この三つの地区の自警団の本部はどこにあるんで?」 「おう、それを言わねばならんな。ここの地区はここにある」 河村班担当地区の自警団本部は黒金町の、郵便局の近くにある。酒井班のそれは幸町の、国道三十八号に面した所にある。古川班のそれは、国道三十八号と駅前広場から来る道の丁字路に近い所だ。 谷口班以外の三班は一斉に出動して行った。今は自警団は皆出払っているというので、私達も続けて出動した。一時四十五分。 昼の間は敵の活動は不気味なほど無く、町にも銃声が響くことは無かった。やがて夕方が近づき、釧路駅前のバスターミナルに着くバスから降りて駅へ向かう高校生が増え始めた。 銃声! 駅の方から立て続けに聞こえてきた。私は殆ど無意識のうちに、駅へ向かって突進した。 改札の近くに、小銃を持った男がいる。その男が、あたりの学生を狙って発砲した。私は柱の陰に転がり込んだ。狙いを定めて一発。 男は胸から血を噴いて倒れた。 ホームから銃声が続く。一番線に列車が停まっているが、列車の窓は何枚も割られている。私は改札口の柵を飛び越えた。右の方から銃声が続く。私はホームに駆け出した。ホームを見回す。 左から銃声。私は床に伏せた。私の姿を見たのか、私を狙って弾丸が飛んでくる。鉄兜に弾丸が当たった。顔を上げると、炭水車の上に銃を持った敵兵が仁王立ちになっているのが見える。私は兵に狙いを定めて引鉄を引いた。弾丸は兵の右膝を砕き、兵は炭水車から転げ落ちた。起き上がろうとする兵に第二発。兵は倒れた。 私は機関車に駆け寄った。すると運転台から上半身を乗り出した男がある。私は客車のデッキに飛び乗った。デッキから機関車を窺うと、突然男はホームに転がり落ちた。この男も敵兵だ。機関士と機関助士に突き落とされたに違いない。私は銃を連射した。兵は血塗れになった。 私はデッキから客室に入った。その時向うの客席から銃を構えた男がある。敵であることを瞬間に認めてから、引鉄を引いた。敵は座席の向うに見えなくなった。 突然、向うの便所の戸が開いて敵兵が姿を現した。私は背ずりの陰から銃を構え射た。その敵兵も崩折れた。 その時、三番線に停まっているディーゼル列車の方から銃声が聞こえてきた。私はデッキに飛び出すと、ホームの反対側の戸口から線路に飛び降り、線路を横断してホームによじ登り、ディーゼル列車の戸を開けて車内に入った。目の前にいた敵兵が振り向いた。私は右手刀を、敵兵の喉に打ちつけた。敵兵は座席に倒れかかった。私は銃剣の鞘を払い、敵兵の胸に、背中に突き抜けるほど深く突き立てた。敵兵は死んだ。 私は銃剣を抜き取って敵兵の服で血を拭い、鞘に収めた。後ろの車両から銃声がする。私は車内を走った。 隣りの車両のデッキから車内を見ると、ここも入ってすぐの所に敵兵がいる。私は戸を引き開け、敵兵が振り向くよりも早く銃剣を敵兵の頚筋に突き立てた。敵兵は立ったまま死んだ。 この頃には駅は混乱の巷と化していた。駅員や鉄道公安官がホームを駆け回り混乱収拾に奔走する。客はホームや車内を逃げ惑う。 突然、一番線から爆発音が起こった。私は列車からホームへ飛び降りた。一番線の列車の最後尾車が炎に包まれている。燃える車両から二番線側の線路へ飛び降りる客に向かって、二人の敵兵が銃を乱射する。私はホームに伏せた姿勢から銃で二人を射た。二人は線路に倒れた。私は二番線の線路に飛び降り、最後尾から二両目の客車のデッキによじ登った。最後尾車から逃げてきた客で溢れている。その客を押しのけてホームに降りた。火炎放射器を持った敵兵がいる。私はその兵を射た。背中に背負ったタンクが爆発し、敵兵は炎に包まれた。ホームに立ち昇った火柱は、ホームの屋根を焦がし始めた。駅員がホースを持って駆け回る。水を入れたバケツを持って走り寄ってきた駅員を見つけた私は、彼の手からバケツを引ったくって頭から水をかぶり、近くの割れた窓に飛びついた。大火傷を負った男生徒がいる。私は窓ガラスを彼を引っ張り出すに充分なだけ割ると、窓から上体を突っ込んで彼の上半身を抱え、窓から引っ張り出した。服がまだ燃えている。近くにいた駅員がホースを持って駆けつけ、彼の服の火を消し止めた。私はその窓によじ登り、車内に入った。外の駅員に向かって叫んだ。 「そのホースを貸せ!」 ホースが投げ渡された。私はまだ火が残る車内に水を撒きながら座席を調べた。少し離れた席に、服がまだくすぶっている老婆がいた。私は彼女を両手に抱えると、ホースをそこへ放り出したままデッキからホームへ降りた。丁度来ていた担架に、私は老婆を載せた。 「この婆さんは重傷だぞ」 私はそれだけ言い残すと、またデッキに登った。ホースで散水しながら車内を見回る。 最後部の座席は二つばかり原型を留めないほど大破し、車掌室も壁が吹き飛んでいる。ここに手榴弾が投げ込まれたのに違いない。 と、座席の破片の下から腕が出ている。私は座席の破片をかき分け、下に倒れている人の体を抱え上げた。まだ微かに息をしている。私はその人を抱え、デッキからホームへ降りた。 「また一人、重傷者だ。もっといるかも知れん」 そこへ来た担架に、その人を載せると私はまた車内へ戻った。座席の破片を手で除けながら捜すうちに、一人の子供を見つけた。左腕がもぎ取れ、すでに事切れている。私は喉にこみ上げてくるものをこらえながら、次々に座席の破片を掘り返して行った。次第に車内は水浸しになってくる。 やがて消防車が来た。いきなり窓から水が奔流となって入ってきた。この客車に向けて放水を始めたようだ。私は喚いた。 「まだ中に客がいるんだぞ!」 この声に、消防士が三人ばかりデッキから入ってきた。子供の遺体を見つけると、一人がその遺体を外へ運び出して行った。他の二人は、座席の残骸をひっくり返して客を捜した。木片が浮いて流れてゆく。 やがて、消防車のサイレンでない、パトカーのサイレンが聞こえてきた。 「おっとこりゃ隠れた方が良さそうだな」 私は銃を外套の下に隠すと、一両前の車両のデッキから線路に飛び降り、根室へ向かう線路に沿って走った。暫く走ってから線路から降り、道路を歩いて街中へ入って行った。 その夜、私達は当分寄食することになった警備本部の三階でラジオに耳を傾けていた。 「……次に今日午後四時頃、国鉄釧路駅が自動小銃で武装したグループに襲われました。釧路駅から○○記者がお伝えします」 「釧路駅です。今日午後四時頃、自動小銃で武装した十数人のグループが、下校の高校生を主とした客に銃を乱射しました。犯人グループはさらに、新得行列車の最後尾車をダイナマイト様の物で爆破したうえ、火炎放射器で放火しました。……」 この事件による死者は旅客七名、駅員一名、そして敵兵十四人。旅客五十余名、国鉄職員十名、敵兵三人が負傷した。列車の運休、遅延は五本。 「また、犯人グループの他にもう一人、自動小銃で武装した男が現場に現れました。この男は犯人グループを次々に射殺したこと、消火活動に協力したことなどから、犯人グループに対抗する別のグループのメンバーと見られています。警察ではこの男と犯人グループの関係を重く見て、この男の行方を追っています」 最後の一行。私の背中に冷汗が走った。 「まずい事になっちまったなあ……。事件のほとぼりが冷めるまで外に出られん」 思わず口走った。部下達が言った。 「小隊長だったんですか」 「そうだ。駅員とか消防士とかに、顔をすっかり覚えられちまったに違いない。 それはそうとして、警備時間の割当を決めよう。二十四時間出づっ張りでは体が保たんからな」 「そりゃそうです」 私は九人を見回した。 「そこで、三直制でいこうと思う。三人か四人ずつ三組に分けて、交替で出る」 すると谷口が言った。 「そうすると、一度に哨戒に出るのは三人か四人という事ですか? たった三、四人じゃ少ないですよ」 私は答えた。 「一度に出るのは六人か七人だ。十六時間出たら八時間休み。少々きついが人数が少ないから仕方ない」 反対は無かった。私は勤務時間を決めた。今は七時半だから今夜十時からの分を決める。即ち私と石田と早川が明朝六時まで休み、中村と谷口と吉田は明日の午後二時まで勤務、浅野と西川と屋代と中山は明朝六時まで勤務である。 「十時までは全員勤務だ。あと二時間半。要塞の時のように、四時間毎に集まろう」 私達は外套の下に小銃を隠し、鉄兜を被り、夜の街へ出て行った。 栄町、末広街、北大通といったこの辺りは繁華街である。夜八時近くなった今でもまだ街から賑いは消えない。私は人混みの中をそれとなく往来した。 とこの時、サイドカー付きのオートバイが幣舞橋の方から走ってきた。サイドカーの男が持っている物は? 私は目を凝らした。 突然辺りに響いた銃声! サイドカーの男の手元が閃く。軽機に間違いない。狭い通りは一瞬にして恐慌に支配された。私はオートバイを狙って連射した。サイドカーの男が血を噴いて転がり落ちる。オートバイは私に向かって突進してきた。運転している男が拳銃を抜く。私は銃を構えた。引鉄を引く。 手答えが無い! 弾丸切れだ。 私は身を飜して路地に隠れた。オートバイが近づいてくる。拳銃を持ってはいるものの銃声がしない。サイドカー付きのオートバイを片手運転するのは難しいのだろう。 近づいてきた。私は銃を逆さに持って通りに踊り出し、猛スピードで走るオートバイの運転手の顔を、銃の台尻で薙ぎ払った。運転手は奇声を発してオートバイから転げ落ちた。額を打ち割られた運転手が起き上がるより早く、私は運転手の喉に銃の台尻を打ち下ろした。運転手は動かなくなった。 金縛りに会ったように身動きしなかった通行人達が騒ぎ始めた。私は、少し先で横転しているオートバイを起こすと、それに乗って現場から走り去った。 (2001.2.8) |
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