近江物語

第十三章 微行
 女御を入内させてからの帝は、生活に張り合いが出てきたせいか、一層政務に励むようになった。それでも時には、主だった公卿が物忌で欠席したりして、暇な日というのもある。三月初めのある日、政務が早々と片付いて暇になった帝は、例によって藤壷へ出かけた。女御は東宮を寝かしつけて、夏物の産着を縫っている。
「やあ、精が出るね」
「あら主上、政務は済んだの?」
 女御は針仕事の手を止め、顔を上げた。
「うん、大臣も大納言も物忌で出てこないんで、会議は流会。しかし何だろうね、物忌って」
「それは色々あるでしょ、行触れとか方塞りとか……」
 女御が一般論として言おうとするのを帝は遮って、
「そりゃ建前はそうだよ。だけど本音はどうなんだろう。……そう言えば昨夜、三条邸で宴会があったらしいな。大方また飲み過ぎて、二日酔で参内できなくなって、物忌と偽って休んでるんだろうな」
「……」
「全く、宴会というと飲み過ぎるんだから。どこかで宴会があったというと、大抵その翌日、誰かしら病気だ物忌だと言って休むんだ、嘆かわしい」
 帝の口調は辛辣だ。
「でもいいや。今日は暇だし、天気もいいから、ちょっと出かけてみようかな。貴女も来る?」
 帝が誘うと、女御も乗り気になって、
「あら、面白そうじゃない。どこへ行くの?」
「東市はどうかな。前から一度、行ってみたかったんだけど、周りがうるさくてね」
「でしょうね」
「一度、市場ってものを見てみたいんだ。それも、行幸なんて大袈裟なやり方でなくてね、庶民と一緒に」
 帝が陽気に言うと、女御は一層目を輝かせた。この時代の貴族の姫君というものは、下手をすれば一生寝殿を出ずに終わるくらいで、市中に外出する事など殆どなかったのだ。
「じゃ、行きましょ、……と言ってもこんな格好じゃ出られないわね。お半下の衣を借りようっと」
「じゃ私は、雑色になるか」
 帝は藤壷を出て、清涼殿へ戻る途中、滝口の陣を通りかかると、武士が一人、日溜りの中で居眠りしている。
「これ、起きなさい」
 帝に声をかけられて、武士は飛び起き、職務怠慢を咎められたと思って平伏する。
「も、申訳ございません!」
 帝は笑って膝を突き、小声で言った。
「別に咎めはしないよ。それより、一つ頼まれてくれないか」
「はっ!」
「折烏帽子と水干と、指貫の地味なのを一揃い、貸してくれないか」
「はっ!? ……承知仕りました!」
 武士が詰所から持って来た、折烏帽子と水干、指貫を身に着けると、これは到底、帝には見えない。京洛も治安が悪い折とて、佩剣を帯びて、蔵人連中に気付かれぬよう、そっと清涼殿を出た。藤壷の前へ来ると、女御は、下仕えの女が着るような粗末な衣を尻端折りにし、市女笠を被っている。東宮を抱いているのを見て、帝は、
「その子も連れて行くの?」
「そうよ。暖かくなったら、外へ出して日に当たらせた方がいいのよ」
 女御は当然のように言って、さっさと歩いていく。帝も後から行く。しかし帝が改めて辺りを見ると、どの門の警備も至って怠慢な状態で、一人か二人の武士が、春の日を浴びて居眠りしているか、起きていても昼日中から飲んでいるかサイコロ賭博かという有様である。卑しい身なりの夫婦連れが門を通り抜けようとしても、誰何する者もない。
「何だろこの警備? これじゃ内裏に強盗が入るのも無理はないや」
 帝は呆れ果てて言った。昨年内裏に強盗が入り、女官が身ぐるみ剥がれた上に右馬寮の馬を乗り逃げされるという事件があって、警備の者が譴責された事があったが、それから幾らも経たないのにこの有様である。
 美福門を出ると京洛である。貴族の邸宅あり、庶民の小家あり、寺院あり廃屋あり、更地もある。地味な装束で手を取り合って歩く二人は、行き交う庶民にすっかり同化していた。
「私達、本当に、桜さんと大黒丸に戻ってしまったね」
「主上と藤壷女御、この子は東宮と言っても、誰も信じないわね」
 美福門の南には、皇室直営の園地である神泉苑が広がっている。池もあって水利も良いのだが、この頃は帝もここへは足を運ばないので、次第に荒廃してきている。そんな様子を女御は珍しそうに眺めている。
 前方から一騎の騎馬武者がやって来ると、横柄な様子で怒鳴る。
「どけどけ下人共、衛門督殿のお通りなるぞ」
 通りを歩いている庶民達は、慌てて両側へ寄って道を空ける。帝と女御が道の真中を歩いているのを見ると、一層横柄に声を上げる。
「こらそこの二人、早くどかんか!」
 帝は女御の手を引いて、そっと道の端へ寄る。帝は女御に囁いた。
「私達が誰だか知ったら、どんな顔するだろうな!」
「そうね、ふふ」
 女御も含み笑いする。
「葱花輦や牛車に乗っててはわからない事も、歩いてるとわかるんだね。砂埃、石ころ、牛の糞、それに、横柄な貴族の行列!」
 帝がそう言って笑うと、女御も言った。
「そうよね。私達いつも、あの行列の中にいるんですもの」
 これを聞き咎めた者はなかった。
 四条辺りへ来ると、商店街が広がっている。国営市場は七条の東西両市と決まっているのだが、商業活動が活発化してくるに従って、やはり上客である貴族の邸宅の多い上京の方に集まってくるものだ。
「この辺りも賑やかだね。七条まで行くのも面倒だ、ここらをぶらついてみようよ」
 帝と女御は、商店街の雑踏の中へ足を進めた。山海の食品を扱う店が一番多いが、衣料品店、台所道具屋、刀剣商、薬屋、さすがに人身売買の店はないが、その他は大抵どんな物でも売る店がある。賑わいも大したものだ。帝も女御も、商店街という所へ来るのは初めてなので、見る物聞く物何でも珍しい。一軒の店先で立ち止まっていると、店員が、
「らっしゃい、何にしましょ」
 この店は食品を扱っている。ふと空腹を覚えた帝は言った。
「何か食べる物はあるかな」
 店員は上機嫌で、店先の桶を指し、
「この鮒鮨は如何でしょ? 琵琶湖の鮒っす」
 琵琶湖と聞いて、帝も女御も郷里を思い出した。懐しさに胸が一杯になって、
「じゃそれ、二つくれないか」
「へい毎度。十二文っす」
「え」
 帝も女御も、いきなり現実に引き戻された。何しろ、貨幣を手に取った事もないのだ。一文たりとも、持っている筈がない。店員は俄に軽蔑した顔になって、
「何だ、金持ってないの? 冷やかしなら御免だよ! こちとら忙しいんだから!」
 すごすごと引き退る帝に、店員の声が耳に入った。
「どっこの田舎者だろね、全く」
〈田舎者、だと!?〉
 思わず振り返ろうとした帝を、女御は素早く引き止めて囁いた。
「貴方! 私達が世間知らずなんだから、仕方がないわよ」
 帝は拳を握りしめたまま、黙って女御に従った。腹立ちが収まらぬ様子で呟く。
「桜さん、物を買うのに金が要るなら、何でそうと言ってくれなかったの」
「私の郷里じゃ、お金で売り買いなんてしないもの。大抵、お米と交換してるわ」
 帝はやや納得した。声を和げて、
「そうか。それであの男、田舎者って言ったんだな」
 だが、金を持たずに商店街をぶらついても余り面白くない。雑踏の騒がしさも耳障りだし、そのうちに昼日中から喧嘩する者も出てくる。東宮が泣き出したりして、落ち着いていられない。やがて帝は言った。
「ここらはもういいよ。他の所へ行こうよ」
 帝と女御は四条を後にして、もっと南、右京の方へ向かった。七条の西市辺りまで来ると、もう人家も疎らになる。点在する小家の間に麦の穂が風に揺らぐのを見て、帝は物珍しげに言った。
「洛中にこんな所があったなんて知らなかった」
 農夫が牛に犂を曵かせているのを見ると、女御は嬉しそうに言う。
「あら、田起こししてる! もうそんな季節だったのね」
「田起こし?」
「あら貴方、知らなかったの? 田植えの前に、田んぼをよく耕して、去年の刈株を鋤き込むのよ。それから水を入れて、鍬でよくならして平らにしてから、五月になったら田植えをするの。それから……」
 女御は近江にいた頃は、郡司の所有する田で小作人が働くのをよく見ていたので、稲作に関してはそこそこの知識はある。得意気に語るのを、帝は興味深く聞き入っている。
「そんなに手間がかかるのか。今迄、米作りには時間がかかるとは思ってたけど、それ程手間もかかるとは知らなかった。まだまだ、庶民の暮しを知ったなんて言えないな」
 事ある毎に庶民の暮し云々と言ってきた帝にとって、慚じ入った一時であった。
 春の午後、田畑を吹き渡る微風を頬に受けて、その風が運ぶ草の香りを胸一杯に吸い込みながら、帝はいつになくのびやかな心地であった。路傍の草の上に腰を下ろし、田園風景を眺める帝の横で、女御は東宮に乳を哺ませている。
「いいなあ……何かこう、心が洗われるようだ。内裏にいたら、決して味わえないだろうな、こんな気持……」
 帝の嘆息には実感がこもっている。
「そうね……これで遠くに、湖が見えたら、もう言う事ないわ。あの、湖から昇る朝日、湖の香り……いつかもう一度、郷里へ帰りたいな……」
 女御も呟く。帝は思いついたように言った。
「そのうち、石山へでも行幸しようか?」
 女御は一層目を輝かして言う。
「竹生島の方がいいわ。竹生島へ行くんなら、滋賀郡も高島郡も通るもの」
 ところが帝は、不思議そうな顔で女御を顧みて、
「ちくぶ島?」
 女御は振り返った。
「貴方、知らなかったの!?」
 帝は極まり悪そうに頷く。女御は大袈裟に空を仰いで言った。
「あーあ、都の人って、都の外の事を知らなさすぎるわ! 近江の名所でさえこれじゃ、陸奥や薩摩なんか、どこにあるかも知らないんじゃないかしら!」
 帝も言い返す。
「どこにあるか位知ってるよ! ……でも、確かに私も、都の外の事は殆ど知らないな。天下を治める者として、これじゃいけないと思うよ。……そうだな、風土記を新しく作らせよう。以前に作らせたのは平城京ができた頃だから、今ではもう読む人もいなくなって、どこへ行ったかもわからなくなってる。あの頃と今とでは、国々の様子も変わってるだろうな、都が遷ったくらいだから」
 女御は微笑んだ。
「貴方のいい所は、自分が気がついた事を、すぐそうやって実行しようとする所ね。そういう人、私好きよ」
「過ちては則ち改むるに憚る事勿れ、ってね。勅撰歌集なんかより、風土記の方がずっと有意義だと思うからね」
 もう日が傾きかけている。二人は手をつないで大内裏へ戻った。
 大内裏へ戻ってみると、上を下への大騒ぎである。衛府の武官が、完全武装で走り回っている。予想された事態ではある。皇嘉門を入ろうとする二人を、衛門府の武官が声高に制止した。
「こらそこの者! 入ってはいかん!」
 衛門府の武官と言っても下っ端の者は、帝を見知っている訳でもない。帝は言った。
「何の警備ですか。責任者を呼んで下さい」
 武官は一層いきり立つ。
「責任者を呼べ、だあ!? 下賎の者の分際で何を言うか! 退れ、退れ!」
 数人の武官が抜刀した。帝は内心苦笑した。
〈私に向かって抜刀したと知ったら、どんな顔するやら〉
 そこへ馬に乗って駈けて来たのは、帝もよく知っている右衛門佐である。
「何事だ?」
 衛門佐は馬上から、武官達を見下ろして言う。
「この者が門を入ろうとしましたので」
 武官の一人が帝の袖を掴んで引っ張る。帝は悠然と進み出て、顔を上げた。
「私を知りませんか?」
「お、主上!?」
 驚きの余り衛門佐は、馬の背から転げ落ちた。冠が取れたのにも気付かず、這うようにして帝の前へ進み出ると、地面に額を打ちつけんばかりに平伏し、激しく震えながら叫ぶ。
「申訳ございません! この者共の無礼、どうか、平にお赦しを!」
 辺りの下っ端武官も、或いは後ずさりし、或いは平伏する。帝は笑って、
「どうして私が大内裏の外にいたか訊かないのですか」
 衛門佐は縮み上がって、声も出ない。帝は言った。
「私と藤壷女御と東宮、三人揃って無事戻ったと、皆に伝えなさい」
 衛門佐が、膝をがくがくさせながら立ち上がると、帝は悪戯っぽく言った。
「そうそう、冠を忘れずにね」
 衛門佐は慌てて冠を拾い、斜に被ると、腋に挟んでいた弓を忘れたまま、馬に乗って走り去った。間もなく近衛の大将中将、衛門督や兵衛督、公卿や蔵人達がばたばたと集まってきた。集まった一同、帝と女御を見て驚き呆れ、腰を抜かす者が後を絶たない。水干に指貫、折烏帽子という庶民そのものの格好で、これまた庶民の女のような格好の女御の手を引いて立っているあばた顔の男、それこそ先刻から大騒ぎして捜していた帝なのだ。何か言おうと口をぱくぱくさせる者は大勢いるが、余りの驚きに言葉も出ない。
 帝は落ち着いて言った。
「皆さんには心配をかけて、済まなかったと思ってます。こうしていても始まらない、とにかく戻りましょう、私は清涼殿へ、女御と東宮は藤壷へ」
 清涼殿へ戻った帝は、顔と手を洗い、いつもの直衣に着替えた。昼御座に出てくると、広廂には公卿が並んでいる。
「今日は政務が早く終わったし、皆さん方も物忌で参内していなかったので、午後ずっと暇だったので。前々から市場というものを見たかったので、女御を誘って、四条の店が並んでる辺り、あの辺へ出かけたんですよ」
 帝が悪びれた風もなく言うと、公卿の一人が恐る恐る、
「し、しかし、あの装束は」
 帝は一層平然と、
「束帯で街中を歩いたんでは、私の望む、庶民に立ち交って庶民の暮しを見る事ができないでしょう。ですから、ある者から庶民らしい装束を借りて行ったのです。その者が誰かは、言わないでおきましょうか」
 左大臣が苦々しげに口を開いた。
「な、何て」
 帝はすぐ後を受けて、
「軽はずみな、と仰言るんでしょう。でもこれは、私の前々からの持論ですけど、為政者たる者、庶民の日常生活を知らずに政は執れないと思うんです。今日の外出で、私は随分色々知りましたよ。市場で物を買うには金が要るってこと、金を持たずに物を買おうとしたら、田舎者って言われましたよ」
「お、主上を、い、田舎者と!?」
 頓狂な声が上がる。
「ええ。まあ京洛の庶民なら誰だって知ってる事を知らなかったんですから、その店の者から見れば私は、陸奥の夷と同じだったんですね」
「一体どこの店の者です、そんな無礼を働いたのは。捜し出して」
 いきり立つ公卿の一人を、帝はたしなめた。
「ほら、その発想がいけないんですよ。向こうは私だと知らなかったんですから。私は市場の者なら誰でも知ってる事を知らず、向こうは宮中の者なら誰でも、でもないか、貴方達なら誰でも知ってる事を知らなかったんですから、これでお合い子ですよ」
 帝は尚も、屈託なく話す。
「こんな事も知りました。私も含めて皆さん達の行列が、庶民達を押しのけながら通って行く時、側へよける庶民達が、どういう顔で行列を見ているか、という事を」
と言いつつ帝は、参議兼右衛門督の顔を意味あり気に見る。
「幾ら貴族だからって、余りこう横柄な物言いをされると、庶民は嫌がるようですよ。馬に乗った武士に見下ろされるだけでも、いい気持はしませんね」
 貴族は誰でも参内する時は、前駆を立ててゆく。これが庶民にどう思われるかなどという事は、気にかけた事もなかった者が多い。
「右京の方では、もう田起こしをやってました。皆さん、田起こしって御存じですか?」
 帝の問いに答えられる者はいない。
「そうでしょう。私も知らなかったんですから。女御が、あの人は十二の歳まで、近江の田んぼの中で暮らしてましたから、私に教えてくれたんです。毎日食べる米を、農民はどうやって作るか、それも知らなかったのには恥じ入りましたね」
「主上ともあろう御方が、そのような事を」
 言いかけた公卿を、帝は眼光鋭く睨みつけ、激しい口調で言い募った。
「知らなくてもよいと仰言るのか。貴方、今朝何を食べました? 米でしょう! 天下万民、上は帝たる私から下は海人山賎まで、誰もが食べ、それによって命を得ている米が、どうやって作られるかを、知らなくてもよいと? 天下の民、私の統べる民の殆どは農民ですよ、農民は米を作るのが生計の途であり、米を作って、それを食べるだけでなく、衣や薬にも換え、租税としても納めて、そして生きているんですよ! 女御の郷里では、米が金の代りにもなっているということだ、それ程大切な米を、農民はどうやって作るか、それを知らなくてもよいなどと、よく言えたものだ! それでよく、廷臣として侍っていられますね!」
 帝の言うことは、公卿達は日頃考えたこともないのだが、言われてよく考えてみれば尤もな事である。公卿達は、しんと静まり返った。
「まあ、私も少し言いすぎました。謝ります。貴方達が米を見る目が、少しでも変わってくれれば、それで良いのです」
 場の雰囲気がやや穏かになったところで、帝は言葉を続けた。
「女御から聞いたんですが、近江の琵琶湖には竹生島という名所があるそうです。私は今日、初めて知りましたよ。どうも私達京洛の人間は、洛外の事を知らなさすぎるようですね。各国の風土記を献上させたのは確か元明女帝の御代ですから、もう大昔の事ですね、新しく風土記を編集させようと思いつきました。如何でしょう?」
「それは大層結構なお考えです」
 後ろの方から声がある。源三位中将だ。帝は喜んで言った。
「初めて賛成意見が出ましたね。それじゃもう一つ、騒ぎの張本人が言うのも何ですが、これなら皆さん誰でも賛成するでしょう」
 帝は茶目っ気たっぷりに公卿を見回し、
「何だと思います? 門の警備」
 公卿の間から、一斉にざわめきが起こる。
「町の庶民みたいな男女の二人連れが、赤児を抱いて内裏から出るのを、誰も見咎めなかったんですよ。出るのを咎めないだけならともかく、入るのもそうだとしたら、内裏に盗人が入るのも無理はないですね」
 宮中警護の責任者である近衛の大将中将や、衛門督、兵衛督といったあたりは、すっかり赤面している。
「もしかして素姓不明の賊が、帝に成り済まして皆さん方の前に坐ってるかも知れませんよ、あれだけ出入り自由だと」
 帝は笑いながら言ったのだが、この言葉の本当の意味に気付いた者はいなかったろう。
「これは御冗談を」
 公卿達も釣られて笑う。
(2000.9.16)

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