はばたけ友美、明日の空へ
制作者 そこつや様 拝領 2000年9月27日


 「ねえ、唯。リボンがとれかけてるよ。」

 「あ、友美おねえちゃん・・・。ねえねえ、直してよ。」

 「はいはい・・・・まったく唯はいつまでたっても甘えん坊ねえ。
  大丈夫? 明日からはあなたも奥さんなのよ。」

 そういって友美は唯の肩をぽんとたたいた。

 「えへへへ。だって唯、なんだかお嫁さんになったっていう実感が
  まだ全然湧かないの。」

 「これだからねえ、唯は。もお、しっかりするのよ。」

 「へいきへいき。大丈夫よ、だって相手は竜之介君なんだから・・・。」

 そう言って、唯は惚気てにこにこ笑った。まったく邪気のない顔だ。

 そんな唯を見るのが本当はつらかった。どこか違う部屋へ行ってしまいた
かった。でも友美はじっと妹の唯のことを見つめていた。顔にほほえみを
浮かべて。そして心に涙を浮かべて。

 そんな友美の心を知るはずのない唯は、もうすぐ披露宴が始まるというのに
ヘッドフォンを耳に当てては、hitomiの曲などを聴いているのだった。


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  友美SS
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       はばたけ友美、明日の空へ
       〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜    作者:そこつや
                       挿し絵:800
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 私は鳴沢友美。八十八大学の大学院で児童文学を研究しているの。

 え? 水野じゃないのよ。鳴沢友美よ。これには訳があるの。

 私の家は4人家族。 え? 典型的な核家族? それがね、そうじゃないの。

 私の家は複雑なの。まずお母さんの美佐子さん。え?何故お母さんを美佐子さん
ってさんづけで呼ぶのかって???

 そう・・・そのあたりも話を聞けばわかると思うわよ。

 美佐子さんは、実は本当のお母さんじゃないの。育ての親、わたしを育てて
くれたのよ。
 今、私たちが住んでいる家は小さな喫茶店なの。

 この家・・・本当は竜之介君のお父さんの家なのよ。

 あ。竜之介君って言うのはね、私たちといっしょに住んでいる男の子。

 ふふふ、もう男の子じゃないわね。れっきとした大人の男性よ。だって
今度結婚するんだもんね。

 この喫茶店は本当は竜之介君のお母さんがやっていたんだけど、15年前に
病気で亡くなってしまったんですって。で、竜之介君のお父さんは世界的に
活躍してる考古学者だから、外国にいつも行ってて、喫茶店やまだ小さかった
竜之介君をどうしようかって悩んだんですって。
 そしたら、竜之介君のお父さんの大学時代の友人だった美佐子さんが、その役
を買って出たのよ。美佐子さんのご主人は10年前に病気で死んじゃったんです
って。だから、喫茶店に一緒に住んで竜之介君を育ててあげることになったって
わけ。
 それでこの喫茶店に竜之介君と美佐子さんと美佐子さんの娘の唯の三人がいっ
しょに暮らすようになったのよ。

 え? そんなことは知ってる?

 もお、せっかちなのは嫌われるわよ。ちゃんと説明を聞いて頂戴。

 じゃあ、わたしはどうしてここに住むようになったかというと、わたしはね
ちっちゃい時まで、このすぐ隣に住んでいたの。
 幼稚園のころね、竜之介君とよく遊んだのよ。
 わたしの部屋と竜之介君の部屋は向かい合ってるの。だから窓を開けると
竜之介君の顔がすぐ見えたな。

 わたしね・・・ちっちゃいころから竜之介君が大好きだった。ううん。もちろん
ちっちゃな頃だから、恋とか愛とかそう言うものではなかったかも知れない。
 でもね・・・・たしかに竜之介君といっしょにいるだけで楽しかった。
 今思い出しても楽しい想い出が一杯なのよ。竜之介君とは。

 でも、そんなわたしに大変なことが起こったの。

 小学校1年生の時、わたしの両親が2人とも交通事故で死んじゃったの。
 わたし・・・信じられなかった。それから毎日毎日泣いていたの。

 そんなわたしのそばにいて、励ましてくれたのが竜之介君だった。

 親戚の人がわたしを引き取りに来たわ。でもわたしは泣いて動かなかった。
竜之介君といっしょがいい・・・竜之介君といっしょじゃなきゃいやだって。
 それはもう・・・わんわん泣いたのよ。

 そんなわたしを見かねて美佐子さんが、わたしが引き取るって言ってくれたの。

 家も隣だし、仲のいい竜之介君もいるからね。

 あ、もちろん唯とも仲がよかったわよ。三人でいつも遊んでたな。

 わたしの方が誕生日が先だからって、唯よりわたしがおねえさんになっちゃっ
たのよ。もう、おかしいでしょ??

 それからわたしは美佐子さんと唯と竜之介君と4人で暮らしてるの。

 ねえ。わかった?わたしの家が単なる核家族じゃないって訳を。



 でもね。中学に入った頃からだったかしら?

 唯が竜之介君を意識しているのを感じたのは。

 唯ったら、熱い視線で竜之介君をじっと見てるんだもの。どうして唯は
あんなに情熱的なんだろうな? わたしはとても唯のようにはなれない。

 でもね。わたしも気づいていたの。竜之介君を見つめる自分の視線に。
竜之介君がいつのまにか胸の中で一杯になっていたってことに。

 竜之介君は、そんな熱い視線を学校で感じるのがおっくうだったみたい。
結構ああ見えても竜之介君ってシャイな部分ってあるんだよ。

 それで、竜之介君は高校にはいると、八十八学園に入学したの。唯のいない
学校ってことで選んだみたいね。あたしはあんまり竜之介君に唯みたいなそぶり
を見せなかったから、竜之介君も私の想いには気づかなかったみたい。
 それで唯は女子校へ、わたしと竜之介君は八十八学園に通うことになったんだ。

 でもね。唯ったらすごいんだよ。自分で転校届けだしちゃって、八十八学園に
転校してきたの。竜之介君を追いかけてきたのは見え見えだったな。

 本当を言うとね・・・あたしはいつも唯にびくびくしてたの。

 だって、あたしは唯みたいに素直じゃない。自分の気持ちなんて素直に出せな
いの。だからひどい自己嫌悪に陥ったわ。唯はいいな、唯はいいなって。
 だけど唯にやきもち焼いてることを唯に知られることすら怖かったの。
 わたしは自分の気持ちはひたすら胸の底に押し込めてかくしてた。
 誰にも悟られたくなかった。
 だからひたすら唯とも仲良くしてた。唯が竜之介君のことをしゃべると、そう
なの?そうなの!って相づち打って、にこにこ笑いながら唯の話を聞いてた。

 どうしてあたしって自分の気持ちをバアっとこう出せないのかな?

 高校生の時はそれで凄く落ち込んだんだよ。

 唯のようになりたいって、髪型を唯のマネしたときもあったな。

 でももう大学も卒業したこの年になると、なんかこう自分にあきらめちゃう
っていうのかな? 所詮これがわたしなのよって、なんか開き直っちゃってる
のよね。

 わたしは唯にはなれない。唯のこと、うらやましいって思ったこともあった
けど、わたしはわたし、唯は唯って、最近はそう思ってる。

 でも唯はわたしにいうの。

 お兄ちゃんが好き。ねえ、友美おねえちゃん、どうしたらいい?って。

 わたしは心の動揺を悟られないようにしながら、唯と竜之介君の相性を
占ってあげたりした。唯の話を一晩中聞いてあげたこともあった。

 でも、わたしは本当は悲しかった。淋しかった。唯にはわたしがいる。
相談できる姉がいる。でも、わたしには誰もいない。わたしはひとりぽっち。

 でもわたしは心の中の竜之介君への想いを押し殺そうとしてた。
 自分の恋に自分で気づかないふりをしようとしていたの。

 そんなある日のことだった。

 わたし、竜之介くんにひょんなことから好きですって言っちゃったのよ。

 そんなつもりはなかったの。あたしは唯を裏切れないし、だからそんなつもりは
ほんとうになかったのよ。本当よ。

 でも、いつのまにか告白してた。一度言葉が口をつくと、長い間たまっていた
ものが一気に吹き出すように、わたしは思いの丈を竜之介くんにぶつけた・・・
 竜之介君はそんなわたしをしっかり受け止めてくれた・・・・

 ああ、今でも忘れない、あの時のキス。もう、きっと一生忘れられない。

 そして私たち・・・・愛を確かめ合ったの。本当に夢のようだった。

 わたし・・・竜之介君がいるなら他に何も要らないと思った。
 唯を裏切ってもいい。たとえ唯の罵りを受けようと、竜之介君といっしょに
いたい・・・・・ほんとうにそう思ったの。

 でも・・・・・結局、唯を裏切れなかった。

 ううん、竜之介君はいいって言ったのよ。俺が好きなのは唯じゃない、友美だ
って、そうはっきり言ってくれたの。

 でも、わたしが唯を裏切れなかったの。

 なにも知らない唯の顔を見ているとたまらなかった。

 唯に合わせる顔がなかった。せっかく竜之介君と結ばれたのに、あたしの心は
唯と竜之介君の狭間で、行き場のない魂が彷徨うように、苦しみ続けたの。

 わたしは叫びたかった。

 どうして? どうしてなの?

 世の中には幸せそうなカップルはいくらでもいる。

 なのに・・・なのに・・・・どうしてわたしはこんなに苦しまなければいけ
ないの。どうしてわたしの恋はこんなに・・・こんなに・・・苦しいの???

 わたしは耐えきれなかった。あの状態は地獄だった。つらくてつらくて・・・・
思い出すだけでも、いまでも悲しくなるの。

 だから、わたしは離れたかった。竜之介君とも唯とも離れたかった。

 唯も竜之介君もいない、どこか別の天地へいきたかった。

 高校を卒業すると、わたしはひとり遠く離れた大学へ入学したの。

 そう・・・竜之介君も唯もいない・・・そんなところへ。

 竜之介君は言ったの。

 ....オレはお前が好きだ。いっしょにいたい.....

 でも、わたしは謝るしかなかったの。

 ......ごめんなさい。あなたは納得行かないでしょう。
    かってにわたしの方から別れようなんて、ひどいことだとわかってる。
    でも、でも、わたしの気持ちが耐えきれないの。どうしようもないの。
 ......ごめんなさい。竜之介君。本当にごめんなさい。



 そして月日は流れたわ。

 あれからもう5年。

 竜之介君と唯はとうとう結ばれて、今日ゴールインするの。

 竜之介君はわたしのことを気にしてくれた。

 唯とこうなったんだ、すまないって....誠実に謝ってくれた。

 でも、わたしは言ったの。

 ・・・気にしないで。わたしがあなたの立場だったら、もっとひどいことを
    したかも知れない。でも、わたしは所詮あなたを愛する資格なんか
    ない。竜之介君、唯を幸せにしてあげて。

 そういったら、なんだかすっきりした。

 ・・・と、友美。

 竜之介君・・・ふふ、困った顔してたな。

 だから、あたしは言ってやったの。竜之介君の肩をポンとたたいて。

 ・・・唯を不幸にしたら、許さないわよ。あたしの大切な妹なんだから。

 それから、遠い街の公園に行って思いっきり泣いたの。もう泣いて泣いて
泣いて泣いて、泣きまくったの。

 後悔しないのか?って・・・竜之介君がいうのよ。

 後悔するに決まってるじゃない!!! 悲しくて悲しくて・・・・後悔して、
そして、落ち込んで。

 それからわたしは、唯の写真をみんなみんな引き破った。竜之介君の写真も
みんなみんな引き破ったの。

 粉々になったたくさんの写真。小さいときからの想い出が一杯一杯つまった
写真。
 それをあたしは知らない街の知らない川に流したの。
 道もわからない知らない街なの。名前も知らない小さな川なの。
 だって、写真を流したことさえも想い出になってしまいそうだから。

 そして、わたしは今日を迎えた・・・・

 今日は唯と竜之介君にとって人生出発の日。

 だけど、今日はわたしにとっても新しい旅立ちの日なの。

 もう面従腹背はいや。今日は心から唯を祝福してやりたい。あの苦しい日々
から解放されて、わたしのこころも飛び立つ日なのよ。

 心から唯と竜之介君のこと・・・喜んであげたい。

 できるかな。わたし。

 いいえ、必ずやってみせるわ。だってそれがわたしの旅立ちの日だもの。






 キャンドルサービスに立つ2人を、友美はじっと見つめていた。

 八十八学園の同級生の悪友がろうそくになかなか火がつかないようにと
意地悪をしたらしい。キャンドルになかなか火がつかない。
 そんな悪戦苦闘するふたりをみんなは心の中で応援してる。
そして火がつくと、拍手の嵐だ。

 それはこれからいろんな難題を乗り越えていく2人の門出を祝う一つの儀式
なのだった。

 長渕剛の「乾杯」のメロディがBGMに流れていた。

 白いウエディングドレスに包まれた唯は、ちょっと涙ぐんでいた。

 その涙がきらきらとライトに光っていた。

 きれいだな・・・・心から友美はそう思った。

 その白い光をじっと見つめていると、今までのことが嘘のことのように
思えてくる。両親が死んだこと。竜之介君の家に同居することになったこと。
唯から竜之介君が好きだと聞かされてひどく動揺したこと。竜之介君と結ばれた
あの日。唯の顔が見れずに罪悪感に悩んだあの日。

 みんなみんな、すぎてしまえば夢のように思えてくる。

 人はみな人生という夢を演じているのかもしれないわね。と、ふとそんなこと
を思う。

 そうよ。人はみな、自分の人生を演じる俳優・女優なのよ。
 それならやっぱり主役を演じてみたいじゃない。
 そうよ、人は自分の人生の中では誰でも本当は主役なの。
 わたしもこれからは主役を演じるわ、誰がなんと言おうと。


 友美ははっと我に返った。キャンドルサービスは終わっていた。

 「花束贈呈でございます」

 司会がそんなことを言っている。しかし花束って誰に贈るのだろう?
普通は両親に贈ったりするみたいだが、唯の方は美佐子さんしかいないし、
竜之介君の父親は、外国から帰れないみたいで、一通の祝電をよこしたきりだ。

 「では、新郎新婦より花束を新婦のお母様でいらっしゃり、なおかつ新郎を
  小さい頃より育ててこられました恩人の鳴沢美佐子様に贈呈していただき
  ます。」

 美佐子さんは当然としても、もう一つの花束はどうするのかな?と友美は
思った。新郎と新婦で花束は二つあるのだ。それともふたつとも美佐子さんに
あげちゃうのかな? あ、それもいいんじゃないか、などと友美は思った。

 「もう一つは、新婦のお姉様として長年いっしょに苦楽をともにして参りま
  した、友美様に贈呈していただきます。」

 え?・・・わ、わたしが???

 心の動揺を抑えきれないまま、皆に押し出されるように、壇の上にあがった。

 「友美?」

 やさしく竜之介が声をかけた。

 「友美おねえちゃん?」

 唯もやさしく言った。

 「大丈夫?友美おねえちゃん? ちゃんと受け取ってよ。なんだかぼおっと
  してるよ。大丈夫?」

 「あ、ああ。・・・・だ、大丈夫。」

 「では、贈呈していただきます。」

 司会の声と同時に、唯の持つ花束が友美に差し出された。

 しっかりと受け取る友美。

 「.....おねえちゃん。.....友美おねえちゃん。」

 急に話しかけられて、とっさに友美は返事が出来なかった。両手に持った
花束が妙に重い。どうしてこんなに重いのだろう。

 「おねえちゃん・・・いままで本当にありがとう。本当に本当にありがとう。」

 唯の眼がまっすぐに友美を見た。きらきら光った純粋な色の眼だった。

 思わず気恥ずかしくて、視線をそらそうとする。

 だが、友美は思いとどまった。

 ・・・・どうして視線をそらすの? 今日は唯のこと心から祝ってあげるって
     誓ったじゃないの。
 ・・・・そうよ。わたしはもう視線はそらさないわ。わたしはわたしの人生の
     中では主役。唯の陰でじっと隠れているなんてもうイヤ。

 友美はまっすぐに唯の瞳を見た。唯と同じく友美の瞳もまた純粋な光できら
きらと輝いていた。

 「ありがとう・・・・おねえちゃん。」

 「ありがとう・・・唯。幸せになってね。」

 友美はそして唯の肩を抱いた。

 はじめて・・・・はじめて唯のこと、心から喜んであげれた。

 そのことで友美自身も深い喜びに包まれていた。


 披露宴は終わった。

 新郎新婦が新婚旅行に旅立つというので、ホテルのロビーにはまだたくさんの
人が集まっていた。

 「竜之介っ!! ばんざーーーいっ!!」

 向こうではあきらたち竜之介の悪友が胴上げを始めてしまった。

 どうしたことが西御寺までが胴上げに加わっている。

 きっと明日は雪が降るかも知れない。

 今日はいずみもこずえもみのりも洋子も桜子ちゃんも可憐ちゃんまで駆けつけて
くれていた。

 だが、唯は女の友人たちに囲まれながらも、友美のもとへまたやってきた。

 「おねえちゃん・・・じゃあ、行って来るよ。」

 「うん。唯がいなくなると淋しくなるなあ。」

 「大丈夫。唯のね、ペンギンのお人形、おねえちゃんにあげるよ。」

 「え? あれは唯のお気に入りじゃ??」

 友美はビックリした。唯はいつも人形を抱いて寝ているくらい、あのお人形が
気に入っていたのだ。

 「いいの! 唯の一番お気に入りなのはお人形じゃないよ。」

 「え?」

 何が言いたいのか友美ははかりかねていた。唯のお気に入りはあれ以外に何が
あるのだろう?

 「あ〜〜のね。唯の一番のお気に入りはね、・・・・。」

 「・・・・・・・。」

 「それはね〜〜っ。とっても優しいおねえちゃんっ!!」

 そういうと唯は子どもっぽくきゃっきゃ笑った。

 「唯・・・・。」

 そう言ったきり、友美は言葉が出なかった。

 友美はなぜだかとっても感動していた。なんだか目頭が熱くなるような気が
した。どうしてなんだろう? 
 視界が涙で曇ってくる。その視界の中で唯は思いっきり大きく微笑んだ。

 「じゃあっ!!行ってきま〜〜す。一杯おみやげ買ってくるから、帰ったら
  いっしょに思いっきり食べようねっ!!!」

 そう言って唯は竜之介とともに、車に乗り込む。

 バタンとドアが閉まった。

 がらがらがら・・・・・

 自動車の後ろに、いっぱいカンカンをつけて大きな音を立てて自動車は
動き出した。

 ・・・唯らしいな。わたしだったら恥ずかしくってできないな。

 変なことに感心しながら、友美は涙を手でぬぐうと微笑んだ。

 何年ぶりの笑顔だっただろうか?

 青空がまぶしい。

 ・・・・唯、いっといで。きっときっと幸せをつかむんだよ。

 友美は走り去っていく自動車に向かって心でそう叫んだ。

 ・・・・わたしだって負けないよ。これからはわたしも自分の人生の
     主人公なんだから。

 そう決意する友美の頬を秋のさわやかな風が吹き抜けていく。

 舞い上がれ、風よ。 舞い上がれ、空よ。

 友美の心が天に届くその日まで。


800のコメント
 このSSと挿絵が生まれたいきさつは、挿絵のコメントに書いた通りですが、さらにその源をたどっていくと、私が制作したCG「持田あゆ または 月宮真歩子」にさかのぼります。
 「持田あゆ」は正直言って、ネタに詰まるとどうしようもないギャグを飛ばすという私の作風の一つの現れですが、公開後はちょっとした反響を呼んだものでした。
 そんなところへ、そこつやさんから「鳴沢友美のSS」が提案されたのです。
 私が思いついた下手なギャグが、こんな形でSS、それも希少価値の友美主演SSとなって結実するとは、「瓢箪から駒」というのでしょうか、世の中何がどう転ぶかわからない、ということを実感させられました。

 ただ、当初そこつやさんから提案されたSSの設定では、友美と唯は「美佐子さんから生まれた双子の姉妹」だったのですが、完成作品では友美は鳴沢家の養子、唯とは血縁関係がないという設定になっています。
 そうなった理由が、「(友美と唯は)双子というには顔が似てない」というのですから、私が先に描いた挿絵を そこつやさんがご覧になってそう判断されたのだとしたら、これは私の失敗と言わざるを得ません。
 普通は文章が先にあって、それに挿絵が付くのに、挿絵の方を先に描いてしまったのが、失敗だったのかもしれません。

 なお、MS-DOS版「同級生2」のスペシャルディスクには、鳴沢家に友美・洋子・いずみ・唯ともう1人の合わせて5人姉妹がいて、そこに竜之介が居候しているという設定の「鳴沢家の居候」なるミニゲームが収録されていますが、そのゲーム──これこそ箸にも棒にもかからないギャグ全壊、もとい全開のゲームです──とは、多分関係ありません。少なくとも私は、そのゲームを全く念頭に置かずに挿絵を描きました。

(2000.9.29)
補足
「そこつやの館」は、2004年6月2日限り、閉鎖されました。長い間のご厚誼に感謝いたします。
(2004.6.3)

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