『コミュニケーション』
コミュニケーション:
みさき「……『あ』……『の』……『ね』。うん、なに?」
『ONE』より「川名みさき」「上月澪」です。
「ONE」にもとづく連作の第3作です。
ONEというゲームは、同じスタッフがKeyを設立した後で制作した「Kanon」「AIR」に比べると、シナリオを持つメインヒロイン相互の関わりが深いのが特徴と言えると思います。例えば前作の場面は、私としてはCGのファイル名(nanase2)が示す通り、あくまでも七瀬留美を主役として描きましたが、ゲーム本編で言えば椎名繭のシナリオの序盤に相当し、椎名のシナリオには、長森瑞佳は椎名の世話役として、七瀬は椎名に制服を貸す役として登場しています。
この3人ほどではありませんが、川名みさきと上月澪もゲームの序盤では、折原浩平を媒介として知り合った後、いくらかの関わりを見せています。それは折原との関わりだけではなく、澪のシナリオのキーパーソンである深山雪見、みさきの親友であると同時に澪の属する演劇部の部長でもある人物の存在によっているとも言えます。
さて、ちょっと真面目に考えてみてください。2003年夏に みさきと澪を描いた作品のコメントでも触れましたが、目が見えない みさきと、耳は聞こえますが言葉を話せず意思表示の手段は筆談(ゲーム本編ではスケッチブックに書く)しかない澪とが、コミュニケーションをしようとしたとすると、みさきから澪へは普通に話しかければいいとして、澪から みさきへはどうやったら意思表示ができるでしょうか?
点字タイプあるいは音声合成装置といった特別な道具を使うか、でなければ健常者がいない限り無理──と考えそうになってしまいますが、健常者を介さず特別な道具も必要としない、現実的な方法が1つあると思います。それがこの、みさきの掌に澪が指で字を書くことです。私が小学生の時に学級文庫で読んだヘレン・ケラーの伝記に、全盲にして聾唖であるケラーに、家庭教師のサリヴァン先生が、掌に字を書くことで言葉を教えた、と書いてあったのを覚えています。ただし、みさきの側に多少の習熟を必要としますが、点字が読めるくらいの皮膚感覚があれば、決して不可能ではないと思います。

800「そういうわけで、もしここにいるのが澪と みさきの2人だけで、折原も雪見もいないとしたら、澪がどうやったら みさきに『話しかける』ことができるか、考えてみたところだ」
澪『スケッチブックに書くの』
800「だから、スケッチブックにいくら書いたって みさきには読めないだろうが。みさきにはスケッチブックが見えないんだから」
澪『はう〜 なの』
みさき「私、点字だったら読めるよ」
800「澪は点字を知らないし、もし知っていたとしても、スケッチブックの紙に点字は書けないが?」
みさき「うー」
800「そこで私が思いついた方法、私以前にも何人もの人が思いついて、SSを書いたり絵に描いたりしているかもしれない方法がこれだ。澪、みさきの掌に、指で字を書いてみな。少し力を入れて、大きく、ゆっくりと、だ。みさきは、澪が書く字は180度回転していることに注意して。ちょっと難しいかな」
澪『あ』『の』『ね』(みさきの掌に指で字を書いている)
みさき「……『あ』……『の』……『ね』。うん」
澪『8』『0』『0』『さ』『ん』『が』『教』『え』『て』『く』『れ』『た』『の』
みさき「……『8』…『0』…『0』……『さ』……『ん』……『が』………… ?? ……『え』……『て』……」
800「……画数の多い漢字は、この方法だと難しいか。点字に漢字はないしな」
みさき「『が』の次、わからなかったよ」
800「掌やその他の場所に指で字を書くという方法は、視覚障碍者への意思伝達方法として以外にも、ゲームやドラマにはわりとありがちなものだと思う。いちばんありがちなのは、男主人公とヒロインが自転車に2人乗りして学校から帰る場面で、男主人公が漕ぐ自転車の後ろに乗っているヒロインが、男主人公に、口には出せない想いを伝える、という場面だろうな。ヒロインは指で男主人公の背中に──当然、男主人公はワイシャツくらいの薄着だというのはお約束だ──こう書く。みさき、掌を出して」
みさき「……『す』……『き』……!? うわぁ、恥ずかしいよ〜!
800「断っておくが、『犂』とか『隙』じゃないからな。……と口で言ってもわからないか、みさきには。
 ……ん、何だ、澪?」
澪『三津野さんが800さんを襲おうとしてるの』
コミュニケーション:
みさき「……澪ちゃん、油性マジックの臭いがするよ」
知美「……まったく、油断も隙もあったもんじゃないわ、館長には」
みさき「三津野さん、800さんの気配がしないよ?」
知美「館長には、ちょっとの間だけエイエソへ逝ってもらいました。大丈夫ですよ、柏木千鶴さんに狩られてもすぐに復活する人ですから」
みさき「…………」
澪『三シ』(『三津野さん、怖いの』とスケッチブックに書こうとして思いとどまったらしい)
知美「館長ったら、上月さんが川名さんの掌に『指で』字を書くという、感動的とまでは言えないにしても ほのぼのしていると言えないことはないシーンだけ描いていればいいのに、すぐにこういうギャグにするから……」
みさき「こういうギャグ?」
知美「上月さんが川名さんの掌に、『油性のマジックで』字を書くシーンです」
澪『油性のマジックは使わないの。これはサインペンなの』
800「……復活したぞ。澪がスケッチブックに字を書くのに使っているのが水性のサインペンであることは充分に承知だがな」
みさき「油性のマジックなんて、そんな、石鹸で洗っても落ちないよ……」
800「だからこそだ、ギャグの度を強めるために油性マジックを…」
ばしばしばし(←澪がスケッチブックで800を叩く音)
800「って、いててっ、あはは、澪にはこういう意思表示の方法もあったな。いや、これは意思表示っていうよりも感情表現の方法か」
『や』
みさき「……やっぱり、ギャグになるんだね、私たちを主役にしたっていうこの連作……」

みさき「私たちを主役にした連作、次は誰を描くの?」
800「題材はまだ、両手で数えるほどあるからな。だけどそろそろ、サイト開設4周年記念作品に取りかからないといけないし、そうなるともうONEの季節は終わってしまうから。余裕があればあと1枚くらい、そうだな、長森か里村あたりを主役にして描いてみたいと思う」
みさき「長森さんか里村さん? でもやっぱり、ギャグになるんだろうね……」
800「まあな、せっかくネタ出ししたんだから。知美に何度しばかれても、私は私の描きたいものを描く。これが私のCG画家としての宣言だ」
(2004.2.26)

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