下級生リレー小説:制作余話
制作 2000年10月1日〜

・第34話 「駅前にて」
2巡目の後で順番の組み替えがあり、私はふりんとぶらっくさんの次、さんの前になりました。
リレーSS世界での季節は夏休みたけなわです。もう下級生のメインキャラは出揃っているので、未登場キャラを登場させるという過去2回の手段は使えなくなるところですが、リレーSSには、同級生・同級生2のキャラをサブキャラとして登場させてもよい、ただしそうやって登場させたサブキャラは自分の担当する回のうちに退場させる、というルールができていました。そのルールに基づいて、既に第11話でぶらぢるさんばさんが西御寺、第18話で すさんが竜之介と唯、第22話でガンさんが竜之介を登場させていました。
そこで私が企てたのは、同級生2のヒロイン友美を登場させることです。
ところがここで問題になったのは、友美と けんたろうは全く面識がないということです。その点は、友美が卯月町の駅前で けんたろうにナンパされたとでもすれば何とかなるのですが、それだけでなく、八十八町の住人である友美が卯月町へ来る、説得力のある理由すら見つかりません。
友美を卯月町(できれば卯月学園)に来させる方策として、「卯月学園と八十八学園のテニス部親善試合」、八十八学園テニス部員である こずえの線から友美を登場させるというのも考えましたが、友美と こずえの接点は図書委員だけですから到底無理です。
同級生2キャラで けんたろうが顔見知りなのは竜之介(第22話)だけなのですが、どうやら竜之介は唯と深い仲になっている様子、今さら友美と一緒に卯月町へ来るのは不自然です。
仮に友美が卯月町の駅前で けんたろうにナンパされたとして、友美が けんたろうのナンパに応じるはずがありませんから、それだけでは1回分のエピソードを組み立てるには不足です。そこで思い出したのは、第8話を打鍵する前に考えついて草稿にしたままお蔵入りしていた、いずみと けんたろうが電話で麗子の話をするエピソードです。
これとて、いずみも けんたろうと面識がないのは友美の場合と同じですが、いずみは友美に比べれば、麗子と友人であるという設定が使えそうです。そうなれば、いずみが麗子の家を訪れて、麗子に けんたろうの写真を見せてもらったことがある──つまり けんたろうが いずみを知らなくても いずみは けんたろうの顔を知っている、という設定が可能です。
そこまで考える頃には、友美が一人で卯月町へ来る理由も見つかりました。八十八町と如月町には、少なくともゲーム(同級生2)の舞台として図書館が登場することはないのです。それなら卯月町立図書館がこの地域で唯一の、そうでなくとも最も蔵書の多い図書館だということにすれば、友美がそこへ本を借りに来るのは少しも不自然ではありません。なぜそれをすぐに思いつかなかったのか不思議です。
そして けんたろうが友美に声をかける動機は。いくら けんたろうでも、相手も見ずに手当たり次第にナンパはしないでしょう。そこで、チャットルームで話題になったことから思いついたのは、友美と瑞穂は後ろ姿がそっくりではないかということです。
そういうわけでプロットが完成しました。卯月町駅前で瑞穂を見かけたと思い込んだ けんたろうが、ただ声をかけるだけでなく親愛の情を示そうとしたら、人違いだった。麗子の家から帰る途中で通りかかった いずみが、友美と男がもめ事を起こしているのを見て駆け寄る。いずみは男が けんたろうであるのに気付くと、麗子のことで話したいことがあると言う。いずみが話すのは、けんたろうが知らなかった麗子の素顔。中心となる いずみの話の内容は、お蔵入りしていた草稿を再利用しました。
ただこのプロットだと、友美は いずみと けんたろうを引き合わせるだけの役回りで、いずみが けんたろうを喫茶店に引っ張り込んでしまうとお役御免、そこで八十八町に帰ってしまっても差し支えないほどの役です。リレーSS参加者中最強の友美萌えとしては、もっと良い役を友美に演じさせたかったのですが、下級生世界で同級生2のキャラを活躍させるのは、やはり難しかったです。
本文の冒頭は第33話ふりんとぶらっくさんの回の結末を受けて、ややギャグ調で始めました。ですが終盤まで打鍵しながら結末が決まっていなかったので、冒頭を受けて結末もギャグで終わらせることも、ちょっとだけ考えたのですが、それをしなかったのは正解でした。ただでさえ目安を大幅に超過しているというのに、200ラインを超える文章の後半をずっとシリアス調で綴ってきて、最後に「しまったぁっ、あの2人の電話番号を聞き出すの忘れたぁ!」と けんたろうが叫んだら、それこそ文章全体が台無しになったでしょう。
そんなギャグでなくて、卯月町から八十八町へ帰る電車の中、友美と いずみの重苦しい会話で終わらせる、という結末を避けたのも賢明だったと思います。あるいは草稿の結末は「けんたろうの胸の中で、麗子に対する印象が、ほんの僅かに変わり始めていたことに、けんたろうはまだ気付いていなかった。」となっていたのですが、これで終わらせたらきっと次の回からまた、けんたろうと麗子のドロドロと煮詰まったストーリーが始まっていたことでしょう。
今にしてもっと工夫の余地があったと思うのは、題名です。何とも味も素っ気もない題名ですが、この回の本文全体の中心となるべき文として私が意図していたのは、いずみの台詞
 「……麗子が……私と同じだからさ」
です。これを採り入れた題名にすべきだったと思います。
(2001.2.23)

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