アメリカの電話帳とテレビ番組
海外旅行先で、その土地の社会・風俗・民情を知る最良の手段は、そこで放送されているテレビ番組、それも日本でいえばNHKニュースよりも民放のバラエティ番組やワイドショーの類だと、上司が言っていました。日本にいた時から、民放のバラエティ番組など毒にも薬にもならないどころか時間の無駄だと決めつけていた自分は、ましてその手の番組を英語で放送されても聞き取れるわけがないので、夜ホテルに戻ってもテレビのスイッチを入れることはついに一度もなかったのですが、その代わりに身の回りにある英語の文章を、片端から読んでいました。すると、これがまた新鮮な驚きの連続です。
ホテルの部屋には、職業別電話帳があります。アルファベット順のページを開くと、最初の項目はAbortion(妊娠中絶)ですが、よく読むと初めにAbortive alternatives - それに続く文章を直訳すると「妊娠中絶の代替を提供し、中絶させないためのカウンセリングを主に行う」が何十件もあり、その中にはCatholic Community Servicesもありました。その後に「Abortion provides」すなわち中絶医ですが、これは電話帳に収録されている範囲内には2件しかありません。2件とも州政府認可とあるので、妊娠中絶はユタ州では一応合法なのは明らかですが、テンプルスクエアで見たサンドイッチマン
(「ABORTION IS MURDER」)のことが示すように、社会的には強く爪弾きされているようです。それでは望まれざる子が生まれてしまったらどうするのかというと、すぐ後のページに「Adoption」すなわち里子斡旋業が、何ページにもわたって載っています。電話帳の最初の方に、いわゆるフリーダイヤルのようなものでしょうか、「こんな時にはこの番号にかけると案内が聞けます」というサービスのページがあり、「女性の健康」に「不妊」が大きく載っているくらいですから、不妊症に悩み子供を切望する夫婦が、日本以上に多いのでしょう。
需要がある限り仲介業があり実行する業者があるのは現代社会の普遍的真理ですが、実態とかけ離れた1行の条文
(1)を隠れ蓑にして、数限りない生命が合法的殺人によって消し去られていく日本と、中絶は最後の選択肢として、とにかくこの世に生まれさせることを最優先し、生まれたら血縁は切り離しても新しい肉親の絆を作り出すことを生業とする人々が大勢いるアメリカと、どちらが健全な社会なのか、という思いに捕らわれました。
日本のホテルでもそうですが、ルームサービスや近くの観光名所などを書いたパンフレットが、ホテルの部屋に置いてあります。そのパンフレットに、「Places of Worship」というのが載っています。まさか誤解している人はいないと思いますが、モルモン教徒がこのソルトレイクシティの街の礎を築いてから150年を経た今では、モルモン教以外の宗派の住民も大勢いますから、そうした人々の教会も当然あります。パンフレットに書いてあるだけでも、Catholic, Episcopal, Presbyterian, Southern Baptist, United Methodist, Greek Orthodox, Korean Catholic, Sacred Heart Catholic, そしてなんとBuddhistまであります。これは職業別電話帳を見なくては、と思ってChurchのページを開くと、あるわあるわ、AからZまで宗派の頭文字別に分けて並べてあり、宗派別の項目は、略称と正式名称の両方が載っているのもありますが、全部で40くらいもありました。中にはMosque
(イスラム教の礼拝堂)とかSynagogue
(ユダヤ教の礼拝堂)のように別のページに載っているのもありますが。日本人はあまり多くないのか、Shinto Shrineはありませんでしたが、Religious organizationのページにはSoka Gakkai International USAが載っています。Jinjaはないかと眺めていくと、Judo, Karaoke, Karate──脱線しました。