2002年5月18日(土)
早瀬雫のシナリオは、途中までは川奈由織のシナリオと同じ流れにあり、シナリオ中盤の4日目でようやく分岐します。そこまでには、森沢奈緒シナリオで見た、管理人が飼っている飛べないカモメのエピソードも出てきます。
2日目の早朝、松林の中で初めて雫に出会った時には、ほとんど会話らしい会話にもならず、すぐ後に同級生の杉野治美から人となりを聞いた時にも、おとなしく寡黙なだけでなく、感情表現に乏しくて何を考えているのかわからない「少し変わった人」──こうなると、人間的な感情が欠落している、最近のゲームに時々登場するタイプのキャラか、という印象を受けます。
治美をして「なんでサマースクールに参加したのかわからない」と言わしめる雫がここへ来たのは、兄が『海の詩(うた)』を聴かせてくれると約束したから。やがて明らかになってくることは、雫よりもいくつか年上の兄、雫の唯一の理解者だったと思われる兄は、スキューバダイビングを趣味にしていて「海の色」のことを雫に説いたことがあったこと、そしておそらくは潜水中に事故死したらしいこと。その兄との約束を果たすために海に来たのですが、途中で動揺して「兄さんを奪った海なんて嫌い」と口走るあたりは、何となく奈緒との類似点があります。義博が力説するのは「たとえ果たせない約束でも、来るのを待っている人がいる限りは来なければならない」──その「果たせない約束」が他ならぬ深景との再会の約束であることは、織り交ぜられる回想シーンを見ながらここまでプレイしてくれば私にもわかります。夜の砂浜でウミガメが孵化して海へ向かっていくシーンで雫の迷いが解け、そして『海の詩』を聴くことができた雫が海辺で「心からの笑顔」を見せる──私としては、ここでハッピーエンドにしても差し支えなかったと思います。
ゲーム全体もいよいよクライマックスに近づいていることを暗示するように、回想シーンでも深景が義博の許から去った真相が明かされてきますし、シナリオ終盤での雫の姿が深景に重なってきて、最後の夜に義博は深景の形見の絵を雫に託していき、そしてエンディングでは1年後の夏に義博と雫が深景の墓に詣でる。このあたりのシナリオが秀逸であればあるほどに、
──たとえ偽善者とそしられようとも、
──最終日のエッチシーンは、なくても良かったのに、
否、ない方が良かったのに、と思わずにはいられません。
義博が惑乱して雫を、そこにいるはずのない深景と錯覚して思いを遂げようとするのに、雫は義博が惑乱していたことに気づいていながら「自分の気持ちは自分でもわからない、それより今の自分にできる事をしてあげたい」と言う、これってエッチシーンを入れるための御都合主義にしか感じられなかったのですが、どうですか?
これは揚げ足取りですが、7年前の夏、義博と深景が別れた場面の回想が、義博が深景をバス停まで送っていったことになっていて、義博が朝起きてみると置き手紙が残っていた、という今までのシナリオ(ちなつ。奈緒と つぐみも多分そう)での記述と全く違うこと。現在のシナリオは義博(=プレイヤー)の行動次第で変化するパラレルワールドだとしても、変えることができないはずの過去(つぐみシナリオあたりのモチーフだったでしょうか)がこう大きく変えられていては、いったい義博にとって何が本当の経験だったのか、困惑するプレイヤーがいるかもしれません(少なくともここに1人)。