『日常と非日常』
日常と非日常
『同級生2』より「水野友美」「竜之介(主人公)」「南川洋子」「川尻あきら」
「野々村美里」「永島佐知子」「永島久美子」
です。
1995年にゲーム「同級生2」を知ったことによって本格的にギャルゲーの道に足を踏み入れ、やがて1999年頃にインターネットという、自分で描いた絵を大勢の人々に向けて公開する手段を知ってからというもの、「同級生2に登場するメインキャラ全員の絵を描く」ということは私にとって、格別の意味を持つ大目標であり続けてきました。
初めてそれを明確に意図して制作した作品は、2000年5月に八十八学園の生徒・教師総出演で描いた「八十八学園の『春』」でしたが、それから3年近く、冬物として構想を抱いてからでは4度目の冬、思えば長い道のりでした。

それと同時に、新潟県という、世界に冠たる豪雪地帯に住んでいる一人として、かねてから考えるところがありました。
それは、豪雪が「日常」である世界を描くということです。
同級生2というゲームは、その主たる舞台である八十八町が、冬はほとんど雪の降らない地帯に設定されており、ゲーム本編中の一大イベントとして、八十八町と対照的な豪雪地帯である冬至村に、主人公たちが1泊2日でスキー旅行をするというイベントが設けられています。
雪が積もらない地帯にお住まいの方々にとっては、新潟県に限りませんが豪雪地帯にスキーをしに行くということは、日常生活を離れた極めて「非日常的」なイベントであると思います。同級生2の制作元であるelfの本社は東京都にありますから、制作元も豪雪地帯に行くということを非日常的なことと捉えて制作したものと思われます。
しかし豪雪というのは、そこに住んでいる人にとっては、毎年繰り返される「日常」そのものです。江戸時代後期に、現在の新潟県北魚沼郡塩沢町の人 鈴木牧之は、名著『北越雪譜』の序文で「豪雪地帯に住む者にとっては、豪雪は生活に多大な苦難をもたらす物であることを、雪を詩歌の題材や遊興の口実にして楽しんでいる江戸の人は、思ってもみないだろう」という意味のことを述べています。それから2世紀近くを経た今、豪雪地帯の冬の生活は江戸時代に比べれば格段に便利になりましたし、戦後は逆に豪雪がなければ成り立たない産業すなわちスキー場が南魚沼郡を中心に新潟県一円に立地して、新潟県の経済振興に大きな役割を果たしています。雪を耐え忍ぶことから雪を克服する「克雪」へ、そして雪を代え難い天然資源として利用する「利雪」へと、雪国の人々のあり方は変わってきましたが、それでも豪雪が「日常」の一部をなしていることには何ら変わりありません。

そういう考えがあったので、パソコン版同級生2に登場するメインキャラ全員のCGを描く計画の総仕上げとして、まだ描いたことのない3人すなわち永島佐知子・永島久美子・野々村美里を描くに際しては、豪雪地帯に住んでいる永島母子には、ゲーム本編で見られる以上に「日常」を強調した描き方をすることにしました。
例えば永島旅館の一人娘である久美子は、たしかゲーム本編では、プレイヤーの行動次第で、スキー場からウェアを着てスキーを履いたまま旅館に戻ってきたのに出会う場面があったはずです。しかし従業員が何十人もいる旅館ならいざ知らず、女将が自ら客室に夕飯を配膳したり布団を敷いて回ったりするぐらい人手不足の旅館で、学校が休みの時期しかも年末年始の書き入れ時に、18歳の子供が遊びほうけていられるでしょうか? 私が旅館の経営者なら、きっとそんな事はさせないと思います。
ですから久美子には、完全防寒の合羽とズボンそれに防寒長靴のフル装備で、豪雪地仕様の鉄製スノーダンプ(*)を手に、旅館の屋根の雪下ろしをやってもらいます。そうするからには佐知子女将も、着物を着てフロントで澄まして座っているのではなくて、団体客が来るまでの手が空いている時間には、久美子と同じように防寒装備に身を固め、小型のロータリー除雪機で旅館前の雪かきをすることにします。さすがにロータリー除雪機を持っている一般家庭は、新潟県の山間部でもあまり多くないようですが、スノーダンプは長岡市あたりより雪が深い地域では、一般家庭でも必需品で、冬になると町のホームセンターで売られています。

この絵に描いたもう一つの「日常」、それは言うまでもなく、八十八町の住人である主人公たちと冬至村の住人である永島母子の橋渡しをする位置にいる、バスガイドの美里です。美里も雪の積もらない八十八町の住人ですから、永島母子のように豪雪が日常の一部になっているわけではありませんが、美里にとっては観光バスに乗務して冬至村に来ることは、主人公たち4人にとってそうであるような非日常的なレジャーではなくて職業であり、それは取りも直さず日常の大きな部分を占めているはずです。

*:新潟で売られているスノーダンプの実物です。 コメリ・ドットコム
(2003.2.15)

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