『ユディトとホロフェルネス』
ユディトとホロフェルネス
『同級生2』より「加藤みのり」「水野友美」「長 岡芳樹」です。
旧約聖書続編 ユディト記 第13章第1〜10節(新共同訳聖書)
1さて、夕刻になり、ホロフェルネスの従者たちは急いで帰って行った。バゴアスは天幕を外から閉め、そばに仕える者たちをも主君の前から退かせた。皆、酒宴が長引いて疲れていたので、おのおの寝床に立ち去った。2天幕にはユディト一人が残された。ホロフェルネスはぶどう酒を浴びるほど飲んで、寝台の上に倒れ伏していた。3ユディトは はしために、いつものとおり彼女の寝室の外に立って自分が出て来るのを待つように言いつけた。はしためには、祈りに行くと言ってあったのである。バゴアスにも同じことを伝えてあった。
4皆が去り、上の者も下の者もだれ一人寝室に残っている者はなかった。ユディトはホロフェルネスの寝台の傍らに立ち、心の中で祈った。
「全能の神なる主よ、
 エルサレムの栄光のために行うこの手の業に、
 今こそ、御目を留めてください。
 5今こそ、代々受け継いだあなたの遺産を救う時、
 わたしの任務を遂行して、
 わたしたちに襲いかかる敵を粉砕する時です。」
 6彼女はホロフェルネスの枕もとの、寝台の支柱に歩み寄り、そこにあった彼の短剣を抜き取った。7そして、寝台に近づくと彼の髪をつかみ、「イスラエルの神なる主よ、今こそ、わたしに力をお与えください」と祈って、8力いっぱい、二度、首に切りつけた。すると、頭は体から切り離された。9ユディトは体の方を寝台から転がし、天蓋の垂れ絹を柱から取り外した。そして猶予せずに外へ出て、侍女にホロフェルネスの首を手渡すと、10侍女はそれを食糧を入れる袋にほうり込んだ。そして二人は、いつものとおり祈りに行くかのようにして出ていった。
この絵の題材は、旧約聖書続編「ユディト記」から採っています。
アッシリアの将ホロフェルネスの率いる大軍がイスラエルを征服しようとし、エルサレムに通じる要衝ベトリアの町を包囲した時、ベトリアに住む寡婦ユディトは侍女を伴ってホロフェルネスの本陣に赴き、その美貌と巧みな弁舌でホロフェルネスを籠絡します。ユディトを抱きたいと思ったホロフェルネスが、有頂天になって酔い潰れてしまうと、その機を逸さずユディトはホロフェルネスの寝首を掻き、ホロフェルネスの首を持って、侍女とともにベトリアへ戻ります。勇み立ったベトリアの軍が打って出ると、総大将を討たれたアッシリア軍は敗走し、イスラエルはアッシリアの侵略を免れました。
たった一人の女性が、勇気と知謀(そして美貌)をもって大軍を敗走させる、という主題は、強大な暴力に対する美徳の勝利としてヨーロッパでは好まれた主題で、何人もの画家によって描かれてきました。
私のこの絵は、その中の一つ、17世紀イタリアの女流画家アルテミシア・ジェンティレスキの作品(フィレンツェ ウフィツィ美術館所蔵)に基づいています。ルネサンス時代には、斬首の場面を描いた絵よりも、ユディトが凱旋する場面を描いた絵の方が多いようですが、少し下ったバロック時代には、ジェンティレスキのこの作品のように、暗闇を背景にした斬首の場面が描かれるようになってきます。
私が「ユディトとホロフェルネス」の題材で絵を制作することを思いついたのは、ずいぶん前のことです。思い立ったその時から、主役である救国の女傑ユディトは「同級生2」のメインヒロインにして私が最も萌えている水野友美、殺されるホロフェルネスは長 岡芳樹という配役で、このような斬首の場面を描くことに決めていたのですが、ようやく実現することができました。
描かれた場面は、例えばユディトと侍女が二人がかりで剣を揮っているというように、上に掲げた聖書の引用とはかなり違っていますが、正直に言えばそれらは私の創作ではなく、大部分はジェンティレスキの創意になるものです。従来、ホロフェルネスの首を持って帰るだけの役割に描かれることが多かった侍女を、ホロフェルネスを殺害するユディトの共同実行者として描いたのは、ジェンティレスキの画期的なアイデアと言えると思います。もし侍女にこのような役割を与えて描いている絵を見つけることができなかったら、同級生2の女性キャラの中で私的順位がかなり上位にある加藤みのりを、侍女として出演させることは考えつかなかったかもしれません。
それにしても、作者が最も萌えているヒロインに演じさせた役が、凱旋する救国の女傑ではなく、悪鬼羅刹の形相で剣を揮う暗殺者であるというのは、一般的な「萌え」とはかなり異なる感情に動機づけられた創作行為と言えるかと思います。
そうなった理由は──この絵を制作した動機が、友美に対する萌えよりも、それとは正反対の方向と、もっと大きな絶対値とを持った感情であったからに他なりませんが、多くは語らないことにします。
(2004.10.1)

次のCGへ
6号館3号室に戻る
前のCGへ