下級生リレー小説:制作余話
制作 2000年10月1日〜

・第107話 「狂気の代償──そして誰もいなくなった」
今回の投稿は、おそらくリレーSS中で最大の問題作となると思います。
リレーSSでの、ここしばらくの私の活動状況を見るに、第85話は「ギャルゲー絡みのエピソードに終止符を打つ」ことだけが目的のやっつけ仕事、第95話の次に順番が回ってきた時には続きが書けなくてパス、第101話はこれまた間に合わせ的なやっつけ仕事をしては、制作余話と称して「私自身が、果てしなく続く恋愛合戦というものにそろそろ倦んできたのかもしれない」などとうそぶいている始末です。
これでは参加者の責任を充分に果たしているとも思えないので、第101話を投稿した直後の日記で「次に順番が来た時には、明確に話を収束に向かって推し進める目的意識を持って文章を書く」と公言して、順番が回ってくるのを待っていたわけです。
そして年明けから少し経ってリレーSSが再開され、私の前の担当者であるゼロさんの第106話が1月25日に投稿されたのですが、それが、「ずっと前に(具体的には第69話)美雪は慎二と結ばれ、それを けんたろうが祝福したはずなのに、いまだに けんたろうは美雪に未練があって、美雪を慎二から奪い取ることを画策し始める」という、仮にもしゼロさんご自身に美雪をどうしても けんたろうとゴールインさせたい理由があるとしても、この期に及んでこんなやり方で焼けぼっくいに再点火するのはあまりにも拙劣かつ不見識と言わずにはいられないような内容だったのです。
第106話に対して、敢えて言えば強い不快の念を覚えたとたん、第107話の最初のプロットが浮かびました。それはもちろん、美雪自身が けんたろうの横恋慕を断乎として拒絶することです。それでも諦めない けんたろうに、これは第68話で けんたろうに美雪に対する踏ん切りをつけさせる役として竜之介を登場させたゼロさんに対する「意趣返し」になってしまいますが、竜之介が登場して、けんたろうに鉄拳を見舞って目を覚まさせると。
ところでこの、踏ん切りがつかなかったり(第68話)オーバーブッキングの失敗を悔いたり(第94話)している けんたろうの許に竜之介が現れるタイミングですが、ラブコメとしてはこの程度の偶然は許容範囲なのかもしれませんが、そういうところに妙にこだわってしまう私には、いささか都合が良すぎるような気がしていました。もっと自分が納得できる説明はないかと考えていて、妙案を思いつきましたが、それはもうしばらくお待ち下さい。
けんたろうが美雪に横恋慕して実力行使に出る場面は、元のゲームにある、1月の日曜日の夜に晴彦が みこを偽電話でラブホテルに呼び出して引きずり込もうとするイベントを流用することにしました。このイベントがどれくらい私に印象を与えたかは、元のゲームで晴彦の企てが けんたろうに破られ、屈辱にまみれて去った晴彦を、ゲーム中で翌日学校で見た時、「お前には自殺する勇気もなかったんだな」とパソコンに向かって口走った(独り暮らしでよかったです、いやホント)と言えば充分でしょう。
今にして思えば、このくらいに止めておけばよかったのかもしれません。
でしたが、けんたろうが美雪に横恋慕し始めたとなれば、美雪と慎二の仲を応援しているに違いない愛は黙っていないでしょう、たとえそれが、けんたろうに美雪を諦めさせれば けんたろう争奪戦の競争率が下がるからという打算であるとしても。それに私が今まで11回担当した中で、登場率が低かった女性メンバーは美夏と真由美なのですが、美夏は稔と結ばれている(今後また誰かが変なことを思いつかない限りは)のでもう登場させないとして、ここらで真由美をもふるい落とす──と言うと語弊がありますが、美雪に横車を押して竜之介に鉄槌を下された けんたろうを見て愛想を尽かすという形なら、真由美の性格からしても充分あり得るでしょう。あるいは個人的には色恋沙汰にうつつを抜かしていてほしくない涼子、立場上不純異性交遊には厳しく対処せざるを得ない静香、彼女たちの環視の中で けんたろうが竜之介の鉄拳を喰らえば、そのさまが無様であればあるほど、彼女たちを恋愛合戦から離脱させることができる、と考え始めてしまったのです。行き着いた所は、第44話に匹敵するオールスターキャスト。彼女たちが全員、けんたろうに愛想を尽かす──この時点で「そして誰もいなくなった」という仮題が決まってしまいました。
さて、けんたろうの暴挙とその代償(竜之介に殴り倒されること)を知った女性たちは、けんたろうに完全に愛想を尽かす、元のゲームで言えば「修復不可能」な関係になるのですから、やはり噂に聞くだけでなく自分で現場を目撃する必要があると思います。ですが1人や2人ならともかく、関係者全員が同時に、それも女子高校生が1人で足を向ける場所には到底似つかわしくないラブホテルに、偶然通りかかるというのは不自然です。誰かが手を回して、関係者全員が集まるように仕組んでおく必要があります。それをするのは誰か。
──もう決まっています。けんたろうの一挙手一投足を監視していて、けんたろうへの復讐、けんたろうと周りの女性たちの関係を破壊することに執念を燃やしている、ティムです。しかも第78話の時と違って、今度は けんたろう自身が、露見すれば周りから女性が一人もいなくなるような奸計を弄しているのですから、ティムはそれが露見するようにし向けるだけ、これ以上の好機は永久にないでしょう。
そこでティムの作戦ですが、具体的に書くのは愛の場合だけにしておきました。ただ、奥手な愛が けんたろうとラブホテルにしけこんだことはないはずですから、けんたろうの名前を騙ってラブホテルに誘い出すことはしません。その代りに使ったのは、けんたろうと美雪が一緒にラブホテルに入っていく偽写真一枚。それを真に受けた愛がショックのあまりもう一度自殺を図れば、愛が自殺未遂事件を起こしたことを知っている けんたろうは居たたまれなくなるはず、という鬼畜ぶりです。
ですが重大な問題が残ります。ティムは けんたろうを監視することによって竜之介の存在は知っているはずですが、竜之介との接点がありませんから、竜之介を召喚する方法は考えつかなかったはずです。といってここで、ある意味では一番のキーパーソンである竜之介が「偶然通りかかった」ではシナリオ的に弱すぎます。そこで考え出したのが、第78話に登場させた桜子の幽霊。つまり、かつて桜子に「けんたろう先輩を信じなさい」と諭された愛が、けんたろうが美雪に不埒な振舞をしようとしていることを知って、「これでも けんたろう先輩を信じなさいと言うんですか!?」と身を捩っていると、桜子がそれを聞きつけて出現し、愛から事情を聞いて、けんたろうに目を覚まさせるために竜之介を けんたろうの許に召喚する役目を買って出る、ということです。

ここまで決めて打鍵を始めると、我ながら信じ難いほどの調子で打鍵が進みました。しかし内容的には、今までになく暴走しています。例えば人物造形について言えば、リレーSS全体としての主役であるべき けんたろうは冒頭から「狂気」に取り憑かれ、美雪に対して実力行使に出る後半では完全な悪党と化していますし、今回重要な狂言回しとなるべき桜子は愛とのやり取りでは、まさに狂言役者というのですか、すっかり長岡志保か信楽美亜子的なキャラクターになって、ティムの作戦に悪乗りして けんたろうを脅すことを愛に勧めたり、語るに落ちる天国の与太話をしていたりします。
人物造形で唯一、出色のものがあるとすれば、「自分の恋のために美雪との友情をたやすく捨てる女の子」という役どころが定着している愛に、こう言わせたことでしょうか。けんたろうが美雪をホテルに引きずり込もうとし、それを阻止しようとした慎二は けんたろうの暴力の餌食となり、愛の命がけの脅迫も けんたろうを阻止できなかった後──
「美雪ちゃん! 高田先輩のことは、心配しないで! 私が、介抱してあげるから! だから美雪ちゃんは、頑張って、けんたろう先輩に抵抗して! けんたろう先輩に、身体を許さないで! 高田先輩のために! それよりなにより、美雪ちゃん自身のために!」
そして結末。一部始終を知って けんたろうに愛想を尽かした女性たちが、去り際に投げつけていく言葉のいくつかは、元のゲームで けんたろうが彼女たちに「(一緒にいた女性は)俺の恋人なんだ」と告げ、その結果として彼女たちとの関係が「修復不可能」になる時の、彼女たちの訣別の台詞をそのまま使っています。これは取りも直さず、リレーSSにおいても けんたろうと彼女たちとの関係が完全に修復不可能な破局を迎えたことを示唆したつもりです。
そればかりか、静香が けんたろうに手続き上の自主退学を言い渡すことによって、けんたろうの学園生活も終焉を迎えることにしてしまったのですが、これはさすがにやり過ぎだったでしょうか。最後の一線として、定岡の拳銃によって けんたろうの人生を終わらせることはしないでおきましたが、このままでは第107話全体を「夢オチ」にでもしない限り、リレーSSそのものが終わってしまいます。
余談ですが題名は、「そして誰もいなくなった」という言葉は結末まで出てこないので、冒頭で【】をつけてある「狂気」を取り入れることにして、いったんは候補に挙がったのは「狂気の終焉──そして〜」でした。しかしこれだと題名からして「終わり」なので、一歩手前で踏みとどまったのです。
(2002.1.30)

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