番外日記
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2001年11月28日(水)
ゲーム開始時点で既に恋人同士になっている由綺と最終的に結ばれるのですから、他のヒロインのシナリオに比べると極めて平穏無事なシナリオになりそうな気がする──と思うと、それがそうではありません。
由綺は今が芸能界で飛躍する正念場です。そのため特に年明けからは、冬弥と一緒にいられる時間などほとんどありません。するとその状態が続くこと──しかも緒方英二のスタジオに寝泊まりしていることに、冬弥としては言いようのない不安感を抱くわけです。その不安感を、これでもかこれでもかと執拗に増幅していくのが、このゲームのシナリオの特徴です。
ですから由綺シナリオの終盤は、文章のあまりの重さに息苦しくなります。そしてそれが頂点に達するのが最終日(2月27日)の夜、由綺が電話をかけてきて「英二に告白された」と冬弥に告げる場面です。冬弥の不安感をここまで煽ってあってこそ、最後のイベントで「これから先何があっても由綺とは大丈夫」という確信を抱くカタルシスが活きてくるのだとは思いますが、やっぱりちょっと、好悪が分かれそうですね、このゲームのシナリオは。
美咲とゴールインした時、最後に英二が由綺に告白して……という経緯から、由綺シナリオでは終盤で英二と冬弥が対決することになるのでは?という予感があったのですが、見事に外れました。ただそれは何もないわけではなくて、2月初め頃に喫茶店に一息入れに来た由綺を英二が「インスピレーションが来た」と言ってスタジオに連れて行くとか、2月も下旬になって野外撮影の仕事が入った時に行き違いから由綺と弥生がはぐれてしまった後、テレビ局に英二と弥生が来た時に英二が冬弥に言うこととか、非常に隠微な形で存在しています。
お知り合いの方で、英二を大悪党のように評していた方がいましたが、私としては英二を悪役とは思うことができません。もし英二が冬弥と直接対決するような形になって、その時に由綺の所属するプロダクションの主という権力をちらつかせでもしたら、英二は絵に描いたような悪役でしょう。しかしそういうことがあるわけではありません。由綺が冬弥の許に走ったエンディングの後でも、きっと英二は表情一つ変えずに二人を見守り続けるでしょう。ただその様子は、冬弥には英二の心根の底を測り知ることができず、限りなく不気味な印象を与えることでしょうが。

日常会話の際の話題の選び方はゲームの進行には影響なさそうだと前に書きましたが、そうでもなくて由綺の場合には、大学で会って話をする時に「文学」を選ぶと、レポートを書くために図書館で資料を借りることになり、由綺が1冊借り忘れたので冬弥が代わりに図書館で借りてきてテレビ局に届ける(実はこれが由綺シナリオでの必須イベントとされているらしい)といったイベントがあります。あまりにもさりげなさ過ぎて、攻略本を見ながらでないと気づかないようなイベントではあります。
それ以外の場合には、この日常会話コマンドはあまり意味がなさそうなのですが、それをゲームの弛緩とは思わないことにして、例えば緒方理奈と話す時にどんな話題で話したらどうなるのかと試してみると、けっこういろいろあります、これが。それを楽しめる人なら、退屈しないでしょう。
でも英二と「アート」の話をして「デュシャンの『泉』──芸術とは何かを世に問うた問題作だそうですが、そのオブジェが英二の家にもある」と言われて、その意味するところを理解できる人って、ほとんどいないと思いますよ。シナリオライターがちょっと陶酔しているような気がしないでもありません。
そのオブジェというのは、要は男子用便器なのですが、そんなことを訳知り顔で書いている私も低レベルな知ったかぶりです。

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