みさかかおり(改訂版) |
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制作 2002年6月7日 |
改訂 2003年12月6日 |
この文章の登場人物、出来事等の一部は、Keyのゲーム「Kanon」の作品世界から借用していますが、 一部は私こと800の創作であり、全ての設定が元のゲームと同じであるとは限りません。 |
1999年1月9日(土)
雪に覆われた中庭──と言うより校舎裏と言った方が、人けのなさにふさわしいだろう。
昨日とうって変わって、少女は笑顔を絶やさなかった。聞けば、朝からずっとここに立っていたというのに、だ。
「私は、美坂栞です。休んでばかりですが、ここの1年生です」
そう言えば昨日会った時も、栞はそう言っていたような気がする。
「みさか、しおり…?」
「…美坂香里(みさか かおり)」
「もしかして、香里の妹か?」
栞は、まじまじと俺を見上げて言った。
ということは、本当に香里の妹に間違いないようだ。
「そうですか…」
「もしかして、香里に用があって来たのか?」
「祐一さん」
1月13日(水)
「相沢君、また中庭を見てるわね」
多少の躊躇はあったが、やはり香里に訊いてみようと思った。 俺の問いかけに香里は、びくっとしたようだった。 「え? …知らなかったわ、そんなこと。いつから?」
香里が、栞の行動を知らなかったなんて。
俺に聞こえなかったと思ったのか、香里は少し声を上げて聞き返してきた。
すると香里は、いつもの香里らしくない、どこか違和感を感じさせる様子で聞き返した。 「何言ってるの? あたしには妹なんていないわよ?」 俺の思考は凍りついた。
「…相沢君? どうしたの?」
「いや、何でもない…」
栞は、確かに香里のことを自分の姉だと言った。
どっちかが嘘をついている? ・ ・ ・
昼休み。人けのない中庭で、俺と栞、二人きりの昼飯。
「おいしかったです」
俺は、思い切って香里の話をしてみることにした。
「祐一さんのクラスに、私のお姉ちゃんと同姓同名の人がいたんですね」
1月14日(木)
「あーっ、祐一さんだーっ」
「おう、祐一さんだぞ」
「佐祐理さんって人当たりがいいから、きっと友達とかって、いっぱいいるんだろうな」
佐祐理さんは目を輝かせて、ある一人の友達の話をする。 俺の頭の中で、何かが弾けた。
それが再び形を取ろうとした時、 次の瞬間、名雪の行動とは思えないほど乱暴に、腕を引っ張られた。 「わたしだよ、名雪だよっ」 …俺の混乱ぶりは、当分、水瀬家の語りぐさになるだろう。真琴に知られる前に、名雪にイチゴサンデーをおごる羽目になる予感がした。
1月16日(土)
雪に覆われた中庭。いつもと同じ場所に、いつもと同じ格好で、栞が立っている。
「どうしたんだ?」 「…お姉ちゃん…、…香里…」 ……栞は、今、なんて言った???
背後から足音が近づいてくる。それも、一人のものではない足音が。
「?」
香里と。
そして香里は言った。 ・ ・ ・
30分後、百花屋の店内。 |
・長女 美坂 佳織 ・次女 美坂 栞 ・三女 美坂 香里 |
みさか かおり みさか しおり みさか かおり |
3年生 1980年5月5日生まれ 1年生 1981年2月1日生まれ 2年生 1982年3月1日生まれ |
あの時から頭に引っかかっていた香里の言葉──
──「何言ってるの? あたしには妹なんていないわよ?」
それを俺から聞かされた時の栞の言葉──
──「祐一さんのクラスに、私のお姉ちゃんと同姓同名の人がいたんですね」
それは、こういうことだったんだ。俺のクラスにいたんだ、栞の姉と同姓同じ読みの、栞の妹が。
「う〜ん……なんて言ったらいいのか…複雑な事情があったんだな…」 もう一つ、もっとわからないことがある。 「…あんたたちの両親は、なんで3番目の子に、一番上の子と同じ読みの名前をつけたんだ? …こんな、まぎらわしい…」俺が香里と佳織さん(混乱しそうだ)を交互に見ながら言うと、 「…それは、私から説明するわ」 今度は佳織さん。 「生年月日を見ればわかると思うんだけど…相沢君、私はね、この2人の妹とは、本当の姉妹じゃないのよ。 もともと私は、2人の従姉だったの。 私が5歳の時、両親が交通事故で亡くなって、私は美坂家の養子になったのよ」 (終) |
あとがき
この小品の基本的な題材、つまり「美坂香里は栞の姉ではない」あるいは「美坂栞は香里の妹ではない」を最初に思いついたのは2001年の2月、全年齢版「Kanon」のプレイを始めた直後です。チャットルームで誰かが香里の“なりきり”をして「何言ってるの相沢君、あたしには妹なんていないわよ」 と言った時、まだ栞シナリオを終えていなかった私が 「そうか、栞、いや栞さんは、本当は高校3年なのに、ずっと休学していて進級できなかったんだ」 と出任せ(もちろんゲーム本編の設定とは全然違います)を言ったのでしたが、その時はそれを推理小説のトリックに使うことまでは考え至らず、ずっとお蔵入りしていました。 ただ単に香里と栞の、学年と長幼の順が入れ替わっているというだけでは、香里が「妹はいない」と言っても栞が「香里は姉だ」と言えば、祐一には簡単に真相がわかってしまいますから、もう一ひねりしないと面白くない、というところで思いついたのが「同姓同名の姉妹」です。 これは実際に、私の伯母(母の姉)と叔母(母の弟の奥さん)が同姓同名で、母が親戚の話をする時には伯母を「○子姉ちゃん」叔母を「○子さん」と呼び分けていることから思いついたものです。 さすがに本当の同姓同名にしてしまうと、読者のかたが字面を見ても区別がつかなくなってしまいますから、日本人の名前にはいくらでもある、字が違って読みが同じ名前にしました。つまり祐一が栞の姉を「香里」と言ったのを、聞いた栞は「(妹の香里ではなく姉の)佳織」だと解釈した、ということに。 しかし私の伯叔母の場合は結婚したことによって後から同姓同名になったのですが、女子高校生が既婚というのは萎える考えにくいですし、さりとて同じ両親から生まれた姉妹が、命名された時から、字は違っても読みが同じ名前をつけられていたというのは、日本人としてはあまりにも不自然ですから、そこでまた一つひねり出した設定は、本文の通りです。 あとは、オフィシャル設定になっている香里と栞の誕生日は極力いじらず(そのためにもう一つ、相当強引な設定を要しましたが)、なるべく不自然なところがないように、それと推理小説仕立てにする場合のルール(全ての判断材料を問題編で提示する)に留意して、文章を作りました。 (2002.6.17公開 2003.12.6改訂版公開) |
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