番外日記
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2001年11月23日(金)
さて初プレイでは澤倉美咲とゴールインしたのですが、そこまでの感想を簡単に言うと
──めちゃくちゃ痛かったです、プレイし続けるのが辛くなるくらい。
このゲームの一つの特徴として、ゲーム開始時点で既に登場人物同士の人間関係が相当深いというのがあることは、冬弥と由綺がすでに恋人同士であると述べたとおりですが、実はそれだけではなくて、美咲は冬弥・由綺・はるか・彰の4人と高校時代からの深い知り合いであり、しかも彰が憧れている女性だというのです。
そんな美咲を冬弥が好きになり、次第に抜き差しならぬ関係に進んでいくとなると、客観的に見て冬弥は由綺から美咲に乗り換えるわけで、冬弥と由綺の関係も美咲は熟知していますから、冬弥の想いを受け容れるまでの美咲は「罪の意識」を背負い込んでいるという表現が最も相応しいと思います。その美咲を前にした冬弥も懊悩しますが、その時の様子が、私が今までプレイしてきたゲームの主人公と最も異なるのは、「由綺を裏切る」ということを、冬弥自身の罪悪感としてよりも、美咲の心を締めつけている罪悪感として意識していることでしょうか。
わざとわかりにくい言い方をしているようですが、これこそがこのゲームにおける主人公の造形の、類い希な特徴のような気がします。普通の主人公は、「同級生」シリーズや「下級生」の主人公がまさにそうですが、相手の女性の心を推し量り知る能力が決定的に欠けている、要するに「鈍い」のです。だから相手の女性の懊悩をつゆ知らずにのほほんとしている節があるのですが、冬弥は「美咲の心がわかってしまう」のです。それゆえに美咲の懊悩をまず知り、それが冬弥自身の懊悩ともなる。なんだか、「人の心の痛みがわかりすぎる不幸」とでも言いたいような人物です。
そんな冬弥の想いを表現する部分は、あちこちにあります。終盤、バレンタインデーの夜に、美咲が居たたまれなくなって冬弥のアパートを出ていった後、普通のゲームなら「追いかける/追いかけない」という選択が出そうなところで出る選択は「追いかける/追いかけられない」。唖然とするほど衝撃的でした。
そして最後に近づくと、由綺を裏切ってでも美咲と愛し合う間柄になろうと決意するあたりは、それこそ「この十字架を美咲と二人で背負いながら生きよう」と言うに似た迫力があります。ちょっと引用します。
…こんな風に俺達は、再び、何かを裏切る。俺達の知っている、いろんな誰かを…。
…そうだ。俺達の恋心は、情熱は、誰かを、愛すべき誰かを裏切ることでしか成就しない。残酷なことだけど。
…解答は最初から判っていたんだ。
ただ、それを認めるのがつらいから、二人とも、何も判らないふりをして、悩む姿を装って、ひどい遠回りをしてただけなんだ。弱く、ずるかっただけなんだ…。
結局どうやっても、貪欲で脆弱な心の逆証明をするに過ぎないんだったら、受け容れることと同じなんだったら、もう、逃げることに意味はない。
それならあえて、罪を犯そう…。
……人を好きになることって、こんなにも苦しく、悲しいことなのでしょうか?
ただ一つ割り引いて考える必要がありそうなのは、初プレイのこの結末は、冬弥から見れば由綺と彰の両方を裏切る(彰が美咲に想いを寄せていることを知る唯一の人物が冬弥ですから)という、よりによって最も痛い結末だったのではないか、ということです。
私が当初目指していた(はずだったのに)ように、由綺とゴールインしていたならば、美咲も彰も、誰も苦しまず傷つかない結末だったかもしれないと思うのです。由綺以外の誰とゴールインしたとしても、それよりは冬弥の苦しみは増すでしょうが、そうだとしても痛さの総量を見積もることができるなら、他の誰ともつながりのないマナが最少、由綺の同僚にしてライバルである理奈、由綺が全幅の信頼を置く弥生、仲良しグループの一人 はるか、と次第に痛みが増してくるのではないかと。そして最も痛いのが美咲……。

ここからは雑感です。女性6人の中で、いちばん取っつきにくそうなのが辣腕マネージャーの篠塚弥生なのですが、この手のゲームにアイドル系芸能人キャラが登場する時の「必要悪」みたいな感じで登場してくる役柄であるにもかかわらず、単なる「害虫駆除係」ではなくて、由綺を芸能界で大成させることを自らの夢とし、今がその正念場であるとして冬弥に「ほんの数ヶ月の間、彼女(由綺)よりも私の方を好きになってくださればそれで良いのです。/本気でなくていいのです。嘘でも。(中略)私も、あなたと本当の恋人同士になろうとは思っておりません」とまで言い切る人間──冬弥は底知れぬ恐ろしさを感じますが、それだけではない何か、弥生が言うところの「価値観の違い」に立脚した、形容が難しい何かを心の深奥に湛えているような気がします。同級生2の ひかり なんか比較に出すのが気の毒なくらいの。シナリオが進んでいった先でどう化けるか、興味津々です。
第一印象は非常に悪かった、緒方英二。しかしクリスマスイブのライブの後、「『森川由綺』を好きになること」がどういうことなのかを冬弥に説くくだりは、弥生とはまた違った迫力、芸能界という血飛沫の舞う修羅場を生き抜いてスターダムにのし上がり、今は現代のキングメーカーとなった人物がまとうオーラを書ききっています。そのあたりの文章を堪能するうちに、第一印象ほどの悪役ではなさそうに思えてきたのは、人物造形に深みを見せたシナリオライターの力量でしょうか、それとも私も以前よりは人間が丸くなってきたのでしょうか。その昔、同級生2をプレイして「自分の作品で、手段方法を問わず長 岡芳樹を滅殺すること」を生涯の使命と思い定めたり、下級生をプレイした時にはあるイベントを見た後で「佐竹晴彦、お前には自殺する勇気もなかったんだな」とモニターに向かって口走ったりした私も。

シナリオの痛さに圧倒されてしまいましたが、その他の面なかんずくゲームシステムに対する評価は、必ずしも高いとは言えません。
初期設定で主人公の姓名だけでなく血液型と星座まで決めることになっていますが、それがゲーム本編にどう影響するのか全くわかりませんし、ふだんの日に大学なりどこなりで誰かに会って話しかけるのが最も基本的な行動になりますが、その際に話題を選ぶと言っても、それがゲームの進行に影響があるとも感じられません。会話の相手が彰と英二の場合はもちろんでしょうが、女性に話しかけるにしても話題の選び方が好感度に影響するという様子でもないですし。そして出先によって体力の消耗度が異なり、体力が尽きると一日全休。そうなった時に誰かが見舞いに来るイベントがあるというのですが、美咲に限っては一度も見舞いに来なくてもゴールインしますし、それで美咲のCG回収率は100%、つまり見舞いに来るイベントに特別なビジュアルはないということです。
とこうして見てくると、ToHeartに続く作品と言うよりこみパの先駆作と言ったほうがいいほどのシミュレーション的色彩は、ゲームの進行に全然影響がない、逆にプレイを煩雑にし間延びさせるだけという気がします。
間延びと言えばプレイ期間が一日も欠かさず4ヶ月弱というのも、約1年のこみパと下級生ほど長くはありませんが、この両ゲームは完全なシミュレーションゲームであるとすると、アドベンチャーゲームと比較した場合には、2週間の同級生2、3週間の同級生、3週間強のKanon、2ヶ月ではあっても日曜休みで春休みもあるので実質30日のToHeartに比べるといかにも長いです。その長い期間、物語の進行も遅くて、美咲の場合初めて夜を共にするのが12月25日、次に二人の関係が動き始めるのは2月に入ってからになります。現実の恋愛はそのように、月単位、場合によっては年単位で徐々に進行するものなんだ、と言われれば未経験者としては、そうですか、としか言えないのですが。未プレイですがマナの場合、確実に本人に会えるのは金曜日の家庭教師だけですから、土曜日から次の木曜日までは何をして過ごしたらいいのでしょう。
(11月24日アップ)

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