番外日記
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2002年6月22日(土)
最後のヒロインは、遠野家で働く双子の使用人の一人、琥珀です。琥珀シナリオが最後になったのは偶然ではなく、翡翠シナリオを終えてからでないと(もっと厳密な条件、つまり翡翠シナリオはトゥルーエンドだけ見ればいいのか、それともトゥルーエンドを見てからでないと見られないハッピーエンドも見なければいけないのかは、公式攻略本たる「月姫読本」を見てもわかりませんが)琥珀シナリオに入れない仕組みになっているからです。
ですから秋葉・翡翠・琥珀の3シナリオを終えることによって、月姫の重要主題である「遠野よりの血」の全貌が解き明かされる、という構成になっていることを期待したのですが、それを期待しているといささか期待外れだったような気もします。
もともと翡翠と琥珀は表裏一体、2人で1つのシナリオを担当するはずだったのが、正式発売前に出した試作版でプレイヤーの反応を見たところ、予想以上に翡翠と琥珀を支持するプレイヤーが多かったのでしょうか、琥珀メインのシナリオを急遽追加した──というようなことが読本に書いてありました。翡翠シナリオの終盤で、琥珀が事実上このシナリオの主役になっていることと、「遠野よりの血」の全貌がほとんど残すところなく明らかにされてしまうことを知って、それから琥珀シナリオをプレイしてみると、さもありなんと思います。途中で明かされる遠野よりの血の話や翡翠と琥珀の過去の話は、悪い言い方をすれば「プレイヤーがとうに知っていることを繰り返されている」ようですらあります。
と、そこまで批判的な言い方をしないとすれば、琥珀シナリオは翡翠シナリオを補完するというよりは、秋葉シナリオのもう一つの可能性という感触があります。志貴と「共融」しているシキは、秋葉・翡翠シナリオでは最後に志貴と対決することになりますが(アルクェイド・シエルシナリオでもシキに転生しているロアとの対決は、シナリオの最終盤になります)、琥珀シナリオでは中盤、志貴が何もしないうちに秋葉によって討ち果たされ、そこから先は志貴・秋葉・琥珀の三角関係という異彩あるシナリオになるからです。

【ここから先は、圧倒的に反対意見のかたが多いと思います。】

秋葉シナリオの結末で志貴が、生ける屍と化しつつある秋葉との「約束を守る」ことを拒む選択をするとか、翡翠シナリオのトゥルーエンドでは服毒自決を企てた琥珀を、ゲームだとしてもおよそありそうにない手段で蘇生させるとか、そして琥珀シナリオのトゥルーエンドでは遠野の血が全開状態になった秋葉に討たれたはずの琥珀が生き延びていたり、そうなった秋葉を志貴は討つことができなかったり、こういったあたりに何となく共通するのは「生きることの肯定」でしょうか。
もちろん私だって煩悩多き俗世に生きている人間であり、現実世界では生きることを目一杯謳歌し、肯定しています。私が小説やドラマの脚本やゲームのシナリオを書くことがあったとしても、いたずらに死を賛美するだけの物は書かないと思います。
しかし、そうだとしても……あくまでも重要キャラの死を回避するシナリオには、どうもちょっと、御都合主義的とも言えなくもなさそうな引っかかりを感じてならないのです。
自ら死に値する罪を犯したと自覚し、自死を決意している人間が、あるいは理性も感情も善悪の判断も失って、人の血肉を啜るだけの人外の生物と化した人間が、そうなったにもかかわらず生き延び続けることが、本当に無条件で肯定されうるのでしょうか。
ここで論じるには、あまりにも重すぎる問題だとは思います。
(6月23日アップ)

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