番外日記
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2002年6月18日(火)
4人目のヒロインは、遠野家の使用人で志貴付きのメイド、翡翠です。翡翠と琥珀は双子の姉妹(琥珀が姉)で、揃って遠野家の使用人として勤めていますが、翡翠は洋装のメイド服、琥珀は和装の割烹着と作業服が異なるのは、多様なゲーマーの趣向になるべく応えようとした結果でしょうか?
シナリオの大筋は秋葉シナリオと似ています。遠野家の嫡男でありながら幼くして「遠野よりの血」が覚醒したためにその存在を消されていた遠野シキと、シキが覚醒した時に殺されかかって一命を取り留め、遠野シキの替え玉に仕立てられた志貴(もともとは「退魔」の血筋である七夜志貴)。シキの意識が志貴のそれを乗っ取っていき、やがて生命力をも奪い取っていく中で、側にいる人に生命力を与える特殊能力(これを作品では感応能力と呼ぶ)を持っている翡翠の献身──その最も効果的な手段が18禁行為だというのは、この手のゲームの「お約束」として了承しておきましょうか。初めは感情を持っていないかのように見える翡翠が、次第に喜怒哀楽を露わにするようになっていくのも、秋葉を思い出させます。
……しかし最後まで見終わって、志貴とシキの争い、トゥルーエンドではそれに巻き込まれた秋葉がシキの手に掛かって落命すること、これは秋葉シナリオでですが秋葉も次第に遠野の血に覚醒していくこと(本来なら生きていないはずの志貴を生かすために身命を削っている秋葉は、琥珀の感応能力を受けるために琥珀の血を飲んでいますが、それは同時に秋葉を吸血鬼に近づけていくことになります)、それらが実は全部、琥珀の仕組んだ復讐劇だった、と明かされる大詰めは、琥珀をそこまで突き動かした動機は理解できなくはないものの、かなり後味が悪かったです。トゥルーエンドで、志貴に問い詰められた琥珀が全てを告白して自裁した後、志貴への琥珀の想いを受け継いで翡翠が自らを変えていこうとする結びがなかったら、あまりにも救われないエンディングになっていたでしょう。
秋葉シナリオとも合わせて思ったのですが、両シナリオの根源は、突き詰めれば先代の遠野家当主だった遠野槙久が、遠野家の血に覚醒した者を絶つという当主の務めを果たせなかったことにあるのではないでしょうか──それをもって槙久の「悪」または「罪」という言い方はしないでおきますが。要するに8年前に遠野シキが完全に殺されていれば、こんな事にはならなかったんだ、ということ。遠野とは異なる血を持つ七夜の一族を皆殺しにしながら、最後に残った志貴を「シキと名前が同じ」というだけで養子にするという気紛れ、そしてシキが覚醒した時には当主の務めを果たせなかったこと。いつか私が日記に書いたことがあるように、「血は水よりも濁っている」のでしょうか、それとも「利己的な遺伝子」──脱線しました。

ここまで繰り返し「志貴」「シキ」と書いているように、主人公と、読みが同じ名前を持つもう一人の人物とが、秋葉・翡翠両シナリオのキーパーソンです。なかんずく翡翠シナリオには、遠野家当主として「シキを殺す」と秋葉が言ったのを耳にした志貴が「秋葉が自分を殺そうと企てている」と錯覚する(フラグ次第ではそのまま「志貴衰弱死」エンド)場面があり、つい先日「名前の読みが同じ姉妹」をトリックにした推理小説仕立ての文章を書いた人間としては、「『月姫』のこのトリックを真似した」と言われると非常に困ってしまうわけです。「みさかかおり」のプロットを練っていた時、月姫のこのトリックを知らなかったという証明は論理的に不可能ですから。

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