番外日記
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2002年6月10日(月)
3人目は、主人公遠野志貴の妹にして、子供の頃に事実上の養子に出された志貴に代わって遠野家の当主(二人の父親は亡くなっています)の遠野秋葉です。
私が2回目のプレイの時に「萌えなさすぎた」という暴言を吐いたほど(現実に妹がいる私は、もともとあまり「妹属性」がない方だと思っていますが)、初めの頃の秋葉の印象は悪かったです。しかし、人外のモノの血が混じっている遠野家の当主として、その呪われた「遠野よりの血」を抱えたまま、ずっと志貴を待ち続けていた秋葉の想いが、次第に現れてくるに従って、立ちポーズの絵もだんだん和んできますし、それよりも言葉や振舞の端々に志貴への想いが滲んできて、何だかだんだん私も秋葉に感情移入してきたような気がします。最初からべたべたしてくるキャラより、最初は棘々しいのが徐々に心を開いてくるキャラの方が、世のゲーマーの萌え心をくすぐるものなのかもしれません。
秋葉シナリオのモチーフは、アルクェイドシナリオとシエルシナリオがそうである吸血鬼譚よりもむしろ、幼いうちに遠野の血に覚醒してしまったシキ(遠野の血が覚醒した原因は、ロアがシキに転生したことであろうと思うのですが、秋葉シナリオだけ読んでいる分にはそのことは明かされません)と、そのシキの替え玉に仕立て上げられた志貴の相剋になります。やがて秋葉も遠野の血に覚醒するところから、結末に雪崩れ込んでいくのですが、この「一族が持っている人外のモノの血に覚醒する」という主題は、まさに「痕」です。そして秋葉が志貴に「いつか私が遠野の血に覚醒してしまったら、私を殺してください」と懇願するあたりは全編の白眉です。
秋葉シナリオのエンディングは、途中で志貴がシキに殺されてしまうバッドエンドを別にすると3つあって、志貴が生きていることが秋葉の体を削り、遠野の血に覚醒させる原因になっていると知った志貴が自裁するトゥルーエンド、志貴は秋葉を殺すことができず、覚醒してもはや人の血を飲むだけの生ける屍と化した秋葉に命の続く限り添い遂げようとするノーマルエンド、そして秋葉との約束どおり、覚醒した秋葉を志貴が殺すエンドがあります。3つ目のエンディングは扱いとしてはバッドエンドになっていますが、どうでしょう、私としてはこれがバッドエンドであると言い切ることはできません。シナリオ終盤でシエルが言うように「死が救いになる」ことがあるのだとしたら。それよりノーマルエンド、今は志貴が秋葉に自らの血を飲ませることで秋葉を抑えていますが、かつて秋葉が志貴を生かしていたことが秋葉の身命を削ったように、今から志貴が秋葉を生かすために血を飲ませることは、もっと確実に志貴の命を削るでしょう。とすれば遠からず志貴は死に、秋葉は後を追うか、さもなければシキのように人の血肉を啜る殺人鬼となるでしょう。それの方がかえって救いがないような気がします。
アルクェイドとシエルのシナリオには全くない、弓塚さつきの話は、シナリオ中盤、眠っている志貴の意識が何者かに乗っ取られることから志貴が錯覚する(これも「痕」そのものですね)ストーリーへの導入であると同時に、志貴が「生と死」を深く考え込むきっかけとして位置づけられているようです。人の心を残したまま吸血鬼となった さつきを殺さざるを得なかった志貴が、たとえ人の心が残っていなくても秋葉に死を賜うべきか、と逡巡するために。
(6月11日アップ)

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